第1部 第43章
「お土産だよ。」
帰ってきたルシファは紙袋を差し出した。小さな割には重い。
「何?」
袋からはガラスケースに入った水晶が出てきた。
「ライブラリ。本のようなものだよ。機械にかけるとこの水晶に刻まれた内容を読めるんだけど。君は機械がなくても読めるだろ?」
ガラスケースから水晶を取り出して光に透かしてみた。キラキラと光ってとてもきれいだった。
「うん。読めそう。」
「キャプテンがね、君がいろんな事を知りたがってるっていったら、いろいろくれたんだ。」
「キャプテンが?」
見たこともない人が僕のために?
「君は不思議な魅力があるんだね。誰もが君のためになにかをしたくなる。ここまでくると一種の才能だよ。」
「一体、どんな説明したの?」
自分じゃない。絶対ルシファの説明のせいだと思った。
「どうって聞かれてもね。君が自分の力で這い上がって、歩き出して、走り出しそうな勢いだっていったまでさ。」
全然答えになってない。納得いく答えは聞けそうにないのでお茶を入れることにした。
あの水晶にはどんな情報が入っているのだろう? 読むのがすごくワクワクした。
お茶を入れてルシファに差し出すと、ルシファは何か考えてるのか頬杖をついて窓の外を見ていた。
「どうしたの? 疲れてるみたいだよ。」
我に返ってルシファは微笑んだ。
「そうかい? キャプテンはキャッシーのように私をこき使ったりしないよ。」
いつものように軽い話し方をしたが表情には明るさがなかった。
ギルは正面に座って上目遣いに睨んだ。
「じゃあ、どうしてそんなに疲れた顔してるの?」
ルシファはため息をつくと、椅子に寄りかかった。
「気になる話を聞いたからだな。」
「何?」
「君にはまだニュースを見せていないから、世界で何が起きてるかわからないだろ? ニュースではどの地区でどんな事件が起きたか、どこの地区で洪水があったとか、いろんな情報が流れている。私も毎日軽くはチェックしてるけど、最近多いニュースは異常気象なんだ。」
夏なのに雪が降ったり、雨が何日も降り続いて土砂災害が起きたり、逆に日照りで作物が駄目になったり。以前から気象の変化はあっても、ここ最近の気象は異常になってる。
「どうしてなんだろう?」
「さあ、わからない。キャプテンは世界中の気象データ、災害データを集めて分析してるよ。」
「キャプテンってすごく頭がいいんだね。」
「ああ。何せジーンリッチとナチュラルの希望の土地、アニバーサリー・ヴィレッジの責任者だからね。世界のどこで雪が降ろうとも、土砂災害が起きようとも関係なく、快適管理された空間で生きるジーンリッチとは違うよ。」
「ルシファってそんなすごい人と知り合いなんだ。」
キャッシー以外、知り合いの話を聞いたことがなかった。
「父の知り合いというだけだよ。」
「お父さんってどんな人なの?」
ルシファはため息をついた。
「父といっても私を試験管で創ったというだけだけどね。養子にしてるから父になってるだけだ。」
「お父さんのこと好きじゃないの?」
疲れた物言いにルシファにとっては楽しい話ではないことがわかった。
「好きとか嫌いとかいう問題じゃないな。何か酷いことをされたわけでもないし、すごく好きになることもなかった。ただウマが合わないっていうだけなんだろう。父は自分の研究を私も一緒にやるよう勧めたけど、面白みを感じなかったから、私はこうして呑気に生活してる。この家も生活費も父のものだ。勘当されたわけじゃないよ。別に喧嘩別れしたわけでもないから安心して。」
悲しそうな顔で話を聞いているギルに微笑んだ。
もう少し聞いてみたかったが、何となく聞いてはいけないような気がして、それ以上は聞けなかった。




