第1部 第39章
「寝ちゃったわね。」
「そりゃ君の相手は疲れるよ。」
ソファに横になっているギルを起こさないように小声で話した。
キャッシーはゆっくり立ち上がると、ギルの側に行き、床に座ってギルの手に触れた。
「かわいそうに。こんなに痩せて、手もアザだらけ。」
これでも大分治っているのだろう。切り傷も沢山あった。
「この傷の痛みがわかるから、あなたの蚯蚓腫れも心配したのね。」
「蚯蚓腫れどころじゃない痛みだっただろうにね。」
キャッシーは顔を覆った。
「正直、この子に会うのが怖かった。この傷やアザを見たら、泣き出しちゃうと思ったから。でもそんなことしたらこの子はまた辛いこと思い出しちゃうでしょ?」
「だから早々にこき使ったんだろ?」
キャッシーは涙を拭いて顔を上げた。
「だって、体を動かしていれば余計なこと考えないでしょ、お互いに。」
「君ならうまいことやってくれると思ってたから、1番に君に会わせた。」
キャッシーはうれしそうに微笑んだ。
「でも、こんなに早く、こんなに立ち直ってくれるなんてすごい子ね。」
「私も関心するよ。」
「前へ進みたいっていう意欲がすごいの。料理なんて作ったことないし、作ってる所も見たことなかったんでしょうね。それなのに私を真似ようと必死になってた。」
「あの異常な生活が「当たり前」じゃないってわかったんだよ。そしてこれからの生活は自分で作って行くって決めたからね。」
「そう思えたのはあなたが支えたからよ。」
「確かにあのラボから出したのは私の功績かもしれない。でも自分の恐怖と戦って前へ進もうと決心したのは彼だ。私はほとんど何もしてあげられてない。彼が自分でここまでがんばったんだ。」
「全くあなたは、いつもそうやってクールに謙遜するんだから。」
キャッシーはギルの細い手に両手を乗せた。
「これからは幸せになるのよ。もう苦しいことは全部終わったからね。」
祈っているうちに涙がとめどなく溢れてきた。




