第1部 第38章
テーブルに出来上がったばかりのキッシュとお茶を並べているとルシファが入ってきた。
「丁度よかったわ。」
キャッシーは慌てて水を入れたコップにルシファの摘んできたカモミールをさした。
「これがカモミールの花よ。すっごくいい香りがするの。」
コップに差されたカモミールをギルの鼻先に差し出した。思いっきり鼻で息をするとお茶と同じ甘くて爽やかな香りがした。
「本当だ。すごくいい香り。」
コップをテーブルの真ん中に置くと出来立てのキッシュを4等分にした。
「ギルは2枚ね。育ち盛りなんだから。」
2枚乗せた皿をギルに差し出した。
「ありがとう。」
ふと隣に座るルシファの手が気になった。
「手、怪我してない?」
何をいわれてるのかわからなかったが、すぐに思い出して笑い出した。
「カモミールには棘はないよ。」
何を笑っているのかわからない顔でキャッシーが見ているのでルシファが説明した。
「この前、ラズベリィを採った時に棘で手に蚯蚓腫れを作ったらね、やたらと心配されたんだ。」
「なんて優しい子! もう最高じゃない。私益々あなたが好きになったわ。」
大げさに両手を握って感動しまくった。目の輝きまで本当だ。
「もう、ルシファの所なんかいないでウチにいらっしゃい。」
「ここにいたらキッシュどころじゃなくこき使われるよ。」
ルシファが耳打ちした。
「はい、お待ちかねのお茶よ。」
しっかり聞こえていたキャッシーは熱いカップをルシファの手の上に置いた。
「おいおい、冗談だよ。」
「全く! さ、食べましょ。いただきます。」
両手を合わせてキャッシーがいった。ギルは首をかしげた。
「食事の時には『いただきます』っていうのよ。この野菜たちは生きていたの。私達が食べなければもっと生きていられたの。その命をいただくのよ。その命が私たちの体の細胞を作ってくれるの。形を変えて生き続けるのよ。だから、私たちは責任を持って生きなきゃいけない。じゃなきゃ食べられた野菜に失礼だわ。」
自分ひとりが苦しめばそれで済むと思うなとルシファにいわれた。それはきっとこの野菜たちもかわいそうだってことなんだ。
「いただきます。」
両手を合わせて野菜たちに感謝した。
野菜に感謝し、自分で作ったキッシュの味は格別だった。
「なんだか、大きなズッキーニが入ってる。」
「ごめん、きっと僕が切ったんだ。」
「歯ごたえがあっていいのよ。」
キャッシーは笑っていった。ギルは照れ隠しにちょっと肩をすくめた。
「ねえ、ギル。次の服は何色がいい?」
思えば服の色なんて考えたことがなかった。答えに窮していると、そんなのお構いなくキャッシーは話し出した。
「あなたの黒髪は何色でも合うから選び放題だわ。」
「帽子をお願いしたいな。」
ルシファが口を挟んだ。
「街に連れて行こうにも、石がないと何かと気が気じゃなくてね。」
「街? 僕が?」
「他に誰を連れて行くんだ?」
「街に行くなら私も一緒に行くわよ。そしたら一緒に服を選べるわ。お気に入りのアイスクリーム屋さんがあるのよ。あなたに食べてもらいたいと思ってたのよ。それにね、そのお店の前には大きな噴水があってステキなのよ。」
始った。というようにルシファはあらぬ方を向いてお茶を飲み出した。
ギルはただ目を丸くして聞いているしかなかった。




