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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第37章

「かき混ぜて。重いから気をつけてね。」


 どうすればいいんだろう? 見当もつかずに立ち尽くすしかなかった。


「これにはちょっとコツが必要ね。」


 ホイッパーをギルから奪うと、小脇に重いボールを抱えて見事な速さでホイッパーをまわした。


「すごい。」


 あっけに取られるしかなった。


「次は野菜を切るわよ。今日はズッキーニがいっぱい採れたからズッキーニ三昧よ。」


「これがズッキーニ?」


 キャッシーが並べる緑色の細長い野菜をマジマジと見た。


「黄色いのもあるのよ。」


 緑色に混じって何本か同じ形の黄色いのもあった。


「卵の生地が黄色いから緑のズッキーニをいっぱい使いましょう。」


「前に送ってくれたキッシュには赤いのも入ってたよ。」


「よく覚えててくれたわね。うれしいわ。赤いのはこれ。パプリカよ。」


 大きなピーマンのような物もいくつか並べた。


「ズッキーニに赤いのはないの?」


「ズッキーニが赤かったら、それは腐ってるわよ。」


 笑いながらパプリカを半分に切った。キャッシーが握る包丁に目がいったが、特に何も感じなかった。それよりも半分に切られたパプリカの切り口が不思議な形で目を奪われた。


「パプリカって、中身入ってないの?」


 キャッシーはまた笑った。


「パプリカはこの皮の部分を食べるの。考えてみたら中身がない野菜ってめずらしいわね。考えてもみなかったわ。」


 キャッシーの包丁さばきは見事なもので、赤い皮がすごい勢いで小さなさいころ型に変わっていった。


「早すぎて、どんなふうに切ってるのかまるでわからないよ。」


 いくら集中して見ても全く理解できなかった。


「パプリカは切りずらいから、ズッキーニを切って。」


 隣にまな板を置き、ズッキーニを並べた。


「僕、こんなにきれいに切れないよ。」


「やらなきゃ切れるようにならないわよ。つべこべいわずに切るのよ。」


 有無を言わさず包丁を持たせた。


「持ち方はこう。」


 包丁を握る手の指の場所を訂正された。


「野菜を抑える方はこう。こうすれば安全に切れるわよ。」


 ぎこちなくいわれたとおりの手の位置を保持しながら切ってみた。何とか切れそうだ。


「大きさはこれぐらいよ。」


 自分の切ったパプリカを見本に目の前に置いた。


 ギルはその真っ赤なパプリカを何度も見ながら手元にあるズッキーニを切った。


 どうしても大きさが同じにならない。どうしたらこういうふうに切れるんだろう?


 隣でリズミカルに切っているキャッシーの手元を見ても、早くてまるでわからない。


 自分でどうにかするしかない。いろいろな方法を試しながら何とか3本切り終わると、いつの間にか残りはキャッシーが切っていた。


「さ、フライパンを暖めるわよ。」


 大きなフライパンと小さなフライパンを火にかけた。


「小さい方は今から私達が食べる方。大きいのは明日病院に持って行くのよ。」


 さっきの大きなボールも小さいボールに少し分けると、まな板の上の色とりどりの野菜も入れた。


「小さい方を混ぜて。」


 小さいボールを渡すと、自分は大きいボールをまた小脇に抱えて手際よく混ぜた。


 ギルも真似ようと思うが、とてもあんなに早くまわせない。


「早くまわさなくていいのよ。要は混ざってればいいの。」


 ギルはムキになるのをやめてゆっくりと混ぜた。


「フライパンが温まるまでは強火だけど、温まったら弱火にして。」


 大きいフライパンの乗ってるほうの火を調節するので、小さいフライパンが乗ってるほうの火を見よう見まねで調節した。


「そう、それくらいがいいわ。」


 大きなボールの中身をフライパンに注ぐので、ギルも小さいボールを同じように注いだ。もう何も考えずにキャッシーのマネをするしかなかった。


「後は蓋をして。」


 渡された蓋をするとガラス製の蓋の上から見えるキッシュをじっと見つめていたが、そのうち蒸気で真っ白になって見えなくなってしまった。


「キッシュはね、いろんな野菜を入れるから栄養もあるし、彩りいいでしょ? 形もケーキみたいでかわいくて。料理ってね、見た目も大切なの。味も栄養も見た目も全部優秀なのよ。キッシュって。」


 しゃべりながらキャッシーがお皿を用意した。


「数分すれば焼き上がるわよ。その間にお茶を入れましょ。ルシファがうるさいから。」


 ふと気付くとルシファがいなかった。気付かないうちに逃げ出していたらしい。まんまとやられたと思った。


「何のお茶がいい?」


「いつもルシファが入れてくれてるお茶は何のお茶なんだろ?」


「いろいろあげてるから。匂いでわかるかしら?」


 いくつか瓶を並べた。1つ1つ蓋を開けて香りを確かめる。


「これだ。」


「ミントがメインのブレンドしたものね。」


「でも、これ飲んでみたい。」


「これはカモミールね。飲みやすくておいしいわよ。ミントは葉っぱだけどカモミールはお花の部分なのよ。丁度庭に咲いてるから持って帰るといいわ。ルシファ、サボってないでちょっと来て。」


 どこにいたのかすぐに現われた。


「カモミールを採ってきて。」


 鋏を渡されてちょっと肩をすくめた。反論はできない。







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