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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第36章

「今日の午後ならキャッシーが暇らしい。行くかい?」


 報告書がまとまった後、何やら機械をいじっていたルシファがいった。


「え? またそんな急に・・・。」


「急のがいい。いろいろ考えて落ち着かない時間を長く過ごすよりいいだろ?」


 確かに。すでに心臓が早くなってる。この状態が長く続くのは厳しかった。




 ルシファのいうように落ち着かない時間は苦痛だった。


 いろんな事が頭をよぎる。キャッシーのことはルシファから聞いてすごくよく知ってる気分になっているが、思えばホログラムで5分話しただけでしかない。


いくらルシファが自分の事を話しておいてくれたとしても、悪魔として育ってきたことも、心を読む不気味な力があることも知っていてくれても、それでも会いたいといってくれていても、現実の自分があんなに明るいキャッシーに嫌われないようにお話をする自信はなかった。


「あんまり考えないほうがいいよ。どうせ考えたってキャッシーのペースに巻き込まれて終わるだけだ。」


 不安が丸見えのようでルシファが呆れたようにいった。


「僕・・・。やっぱり自信がないよ・・・。今日じゃない日にしようよ。」


「伸ばせばそれだけその心臓のバクバクが長引くだけだ。」


 怖気づくギルの手をひいてステーションに入った。


「まるで今からバンジージャンプでもするかのような顔だよ。」


 ルシファの笑いに気を取られる余裕はなかった。逃げ出したくても体が動かないほどカチカチに緊張していた。


「行くよ。」


 ギルは観念して目を閉じた。


「ギル! いらっしゃい。待ってたわよ。」


 聞き覚えのある明るい声が目の前から聞こえた。目を開くとホログラムで会った赤毛の女の人が両手に何かを下げて満面の笑みで立っていた。


「はい。これがギルのね。こっちはルシファ。」


 ステーションから出る前に何かを渡された。


「私はいいよ。」


 ルシファは押し返そうとしたがキャッシーは許さなかった。


「あなたもよ。」


 渡されたものを広げるとエプロンだった。


「今日はね、キッシュを作るわよ。」


「着いて早々お茶も出さずにこき使うのかい?」


 ルシファは両手を広げてキャッシーの後についてステーションを出た。ギルは何もわからずに後を追った。


「キッシュが出来たらお茶にするわよ。」


 ルシファの不満を軽く流した。


「ここが私の仕事場のキッチンよ。」


 招かれた部屋はルシファの家のキッチンよりもはるかに広く、いろいろな物が並んでいた。


「はい。まず手を洗って。」


 いわれたとおりにシンクに行って手を洗うルシファに続いた。


「冷蔵庫の卵、20個とって。」


 満面の笑みで大きなボールをギルに渡した。ルシファが冷蔵庫から卵を出すとギルの抱えているボールに入れた。


「次は卵を割ってかき混ぜて。」


 目の前の20個の卵はとてつもない数に見えた。しかし、おそらく口答えはできないのだろう。仕方なく割り始めた。何個割ってもうまく割れない。


どうやったらきれいに割れるんだろう?持ち方を変えたり、ぶつける位置を変えてみたりしているうちに20個の卵が全て割れていた。


 任務が完了したことに満足している暇なくホイッパーを渡された


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