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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第35章

 次の本を読む気にもなれなかったのでキッチンに行ってみた。


 ルシファがいつも入れてくれるお茶。キャッシーが大切に育てた茶葉がすぐ目に付く所にあった。


「君のおかげで僕はこんなに変われたんだよ。」


 ティポットもすぐに目に付く所にあった。茶葉をどれぐらい入れていいのかわからずに適当に入れるとお湯を注いだ。


「私の分も作ってくれるかい?」


 いつの間にか伸びをしながらルシファが入ってきた。


「仕事終わったの?」


「ごめん、まだ。少し休憩が欲しい。」


 疲れたように椅子にもたれた。


「はい。」


「ありがとう。」


 ルシファは熱いカップを受け取ると、1口飲んだ。ギルも向かいの椅子に座って自分の入れたお茶を飲んだ。


「何これ! 渋い! 茶葉入れすぎた。」


「これくらいの方が目が覚めていいよ。」


 ルシファはクスクス笑いながらまたお茶を飲んだ。


「料理って大変なんだね。キャッシーってすごい。」


「そろそろキャッシーの所に行ってみるかい?」


「え?」


「君は今、この部屋のブラインドが下ろされてないの気付いてる?」


 慌てて窓を見るとブラインドはなく、窓から燦燦と日差しが部屋に広がっていた。


「僕・・・。光が大丈夫だ・・・。」


「今日は曇ってるせいもあるけどね。晴れた外はまだキツイだろうから、まだ数日は無理だろうけど、短時間なら大丈夫だろう。」


「本当? 何だか、実感ないな・・・。まだまだ行けないと思ってたから。」


「今すぐ行くわけじゃないんだから、じっくり味わってくれ。」


 なんだかウキウキしてにやけてしまう。そんなギルをルシファは楽しそうに見つめていた。その視線に我に返った。何だか顔が火照ってきた。


「ねえ、洪水の話し読んだよ。実際にあんなことがおきたって本当?」


「あの通りじゃないだろうけど。今ある海が地球ができた時からずっと同じ姿で、山も同じだったわけじゃないことは確かだ。」


 ルシファは足を組みなおしてお茶を飲んだ。


「山の地層から海で生息する貝なんかの化石が出てくる。海の中に文明の遺跡が沈んでいるのも発見されている。山がいつでもずっと山なわけじゃないみたいだよ。地球の地殻は動いてる。盛り上がったり沈んだり。永遠に同じものなどこの世にはないんだよ。」


「人間が死ぬように、山も死んじゃうの?」


「そういう言い方もできるね。」


 ルシファは面白そうに笑った。


「死なない人間はいないのかな?」


「いたらその人はとても不幸だと思うよ。」


「どうして?」


「だって周りはどんどん変わっていく。自分だけ取り残されるんだ。」


「じゃあ、周りもずっと同じだったら?」


「何の変化もないってことは何の動きもないってことだよ。君は瞬きすらしちゃいけない。首も動かしちゃいけない。見えるのは今見てるものだけ。何の変化もない同じ画像だけ。どうだい? 不幸だろ?」




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