表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
33/171

第1部 第33章

「ジーンリッチの1例を見た後だから、少しジーンリッチの話をしておくよ。」


 いつも自分が座る椅子にギルが座ったままなので、自分はベッドに腰掛けた。


「もちろん、ジーンリッチが全て彼女のようじゃないことはわかるね。」


「キャッシーもジーンリッチだもん。」


「一言でジーンリッチといっても、2極に分かれてる。さっきの人のようにジーンリッチとしての才能にしがみつくか、キャッシーのように必死に問題と立ち向かうか。」


 キャッシーが?


「ああ、キャッシーのことをまだ説明してなかったね。」


 ルシファはどこから話そうかと少し悩んだ。


「ジーンリッチの自殺者が多いのは話したよね。さっき見たような内容で自殺するんだ。どうしてそんなに心が弱いのか、キャッシーは『生きる力』っていってるけど、私は心理面からそれを考えてた。」


 だから心理判定員をしてるんだ。


「キャッシーはナチュラルからいろんなことを学んだ。ナチュラルだって自殺者はいるよ。でもジーンリッチと原因はかなり違ってる。ナチュラルはそこまで心が弱くない。それで行き着いたのが『衣食住』の違いだ。」


 適温に保たれた温度、湿度、殺菌の環境、仕事などしなくても無料で家や錠剤を与えられ、何かを必死にしなくちゃならないわけではない状態。体に不調が起きれば即座に高度医療の治療でほぼ完治。


ジーンリッチは何もしなくても安全、快適な環境が保障されている。その生活の中で何かをしようという意欲は消え、生きる力さえ失っている。


「アンのようにしがみつける才能があればまだいい方だ。「並」の才能しかしかないものはしがみつくものもなく、ただ毎日を惰性で生きてる。」


 惰性で生きているものは更に生きる力がなくなっている。信じられないような小さなことで人を傷つけたり、自分を傷つけたりする。


「ナチュラルと何が違うのか、ジーンリッチとして人種が分かれたことで人間としての何を失ってしまったのか。」


 キャッシーがナチュラルから学んだことはいろいろあった。


生きるために生きること。


ナチュラルが生きるためには体を維持しなければならない。体を温度差から守る家や服、肉体を維持する食事。それがジーンリッチには「気を使わなくてすむもの」として配慮されていない。


 ただ体が快適な温度に保たれていればいい、そんな家に住んでいて何も思わない。


 服もぬくもりなどない化学繊維で色やデザインだけしかこだわらない。


「キャッシーが特に注意したのは食事だ。」


 錠剤だけ飲んでいれば生きていけるジーンリッチ。しかし、食事は人間として肉体を維持する他にも楽しみとしての価値があるので、ジーンリッチの街にもレストランは沢山ある。


しかし、その食材は人工的に作られた原材料。キャッシーは本来の食材を求めた。台地に根付き、太陽を浴びて、雨にも強風にも耐えて生きてきた食材。


 人間は大昔からそういったものを食べて生きてきた、たかだか1000年遺伝子をいじった生物ぐらいじゃ、遺伝子に刻まれているものは変わっていないはず。なくしたものがあるなら、取り戻せばいい。


「彼女は生きた食材で人の心に影響を与えられることをデータ的に実証したよ。」


 更生病院にいる精神疾患者に定期的にナチュラルや自分の庭で育てた野菜を使った食事を提供し、変化のデータを取らせてもらった。


 劇的な変化は見られなくとも、彼らが少しずつ回復しているのは、病院スタッフが実感している。患者が自分の問題と向き合えるようになったという声もあるし、退院数というデータでも明らかにされた。


「だから、いろんなものを送ってくれるんだ。」


 ケーキやキッシュ。服も気付けばラボで着ていた素材とは全く違う、柔らかく暖かい生地だ。


「そうだよ。君に早く会いたい一心でね。いつも飲んでるこのお茶もキャッシーの庭で彼女に愛されて育った茶葉だ。」


 カップの中のお茶を見つめた。琥珀色の液体がきらきらと輝いていた。


「すごいよ・・・。ルシファもキャッシーも。・・・僕、おかげでこんなに変わった。変われたんだ。絶対に無理だと思ってたのに・・・。」


「確かにサポートはしたよ。でも、いくら手を差し伸べても自分でその手を払いのけたら何も変わらない。君はちゃんと受け入れてくれた。だから変われたんだ。サポートがあること、そして自分は自分の力で変われたこと。それを忘れなければ君はいつでもボールにいっぱいの空気を溜めておける。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ