第1部 第32章
「愚かなものだ。」
ルシファが横になったまま右手を額に当てた。
「とても弱いね。温室育ちのジーンリッチなんてもろいものだ。これがジーンリッチの弱さだ。」
目を閉じたまま独り言のように呟いた。
「人造人間なんて所詮物でしかないんだ・・・。」
「ルシファ?」
美しい顔が冷淡なまでに無表情で、ギルは息を飲んだ。
ルシファは額に当てた手を下ろすと、横になったまま顔をギルに向けた。
ゆっくりと開いた瞳が炎のように光った。その視線がギルと合った瞬間、ふっと激しさが消えて、ルシファの表情が優しくなった。ギルはほっとしたが、その顔は悲しそうだった。
「愚かだと思わないか? 自分のジーンリッチとしての才能にしがみついて、まるで自分が完璧な人間ででもあるかのように思っている。完璧な自分が傷ついて、汚れがついたらもう許せない。やり直しや償いなんて苦渋を味わおうとはしない。」
ギルは言葉を見つけられなかった。
あまりにも重過ぎる内容だったせいもあったが、何よりもルシファのその無表情なのに悲しげな顔がつらかった。
「それより、」
ルシファは突然起き上がった。
「気分のいい内容じゃなかったけど、君は大丈夫?」
起き上がるといつもの優しい顔でたずねた。
ギルは我に返って感じてみた。
「・・・大丈夫。不思議なくらい。なんでだろう? 苦しみや悲しみをちゃんと感じてるとは思うけど、その感情に振り回されてない。」
ルシファはギルの手から石を取った。
「君のボールの中に空気が詰まってきたからだよ。他人の感情という外圧に凹まないくらいに空気が入ってるんだ。」
まん丸な黄色いボールを思い出した。
「どうやって僕は空気を入れたんだろう?」
「君は自分の意思でこの石の記憶を読むと決めた。今まで否定していた能力をちゃんと認めたからだ。君の能力は恐怖や怒りを生むものじゃない。役に立てるものなんだって君が塗り替えたからだ。」
「過去は塗り替えられるっていったけど、それも同じことなの?」
ルシファは頷いた。
「魔法みたいだ・・・。」
ルシファは笑ってベットから下りた。
「少し休んでた方がいい。今、お茶を入れてくるよ。」
ギルは椅子に座ったまま辺りを見回した。
一体、ラボから出てどれくらい立つのだろう? ラボのことが遠い昔のように感じる。今はこの部屋が現実。ここ以外の場所に自分がいることが想像できないくらいにこの部屋が見慣れた、安心できる場所。
そして、どんどん変わっていく自分が当たり前になっている。何一つ変わらない時間が止まってしまったようなラボでの時間が一気に流れ出したかのようにどんどん変わっていく。初めは戸惑いばかりだったのに、今は自分の変化にワクワクしている。
「熱いよ。」
ルシファがカップを差し出した。




