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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第31章

 自分の部屋に着くとすぐに自分のプライベート用の機械を立ち上げた。


 セキュリティチェックをして、愕然となった。


 セキュリティが壊されている。


 アンは力なく座り込んだ。


 おそらく会社の機械からは漏れていない。自分のこの機械からだ。


 会社での研究内容のデータ自体は入ってはいない。しかし、自分の頭に入っている、知識はほとんどが会社での研究内容。プライベートの機械であっても会社のデータとほぼ変わりない知識が入っている。


 なんということをしてしまったのだろう。あの会社を、一緒に研究している仲間をバカにしていた。なのに、自分が偉そうに自慢していた研究内容のベースとなっているのはあの会社での知識だった。自分がさも才能があるように思っていた。しかし、その才能の基礎はあの会社のおかげだったのだ。


 それなのに、自分はその会社や同僚達の努力を踏みにじった。


 どうしようもない恥ずかしさと申し訳なさに何度もテーブルを叩いた。


「アン・・・、アン。おかえり。アン。僕の大切なアン。」


 デイヴィットが両手を広げていた。


「待ってたよ・・・。どこにいるの? 今、どこにいるの? アン?」

「デイヴィット!」


 うつろな目のデイヴィットは宙を見つめて、夢遊病のように手を上げて天に向かって呟いている。


 まさか、デイヴィットのデータまで!


 デイヴィットの本体である機械を見ると、無残に装丁が剥がされている。


 おそらくケリーは無事仕事を終えたのだろう。額の石によって犯罪を犯せばいつでも追跡可能だ。しかし、ケリーの職場の機械からは情報漏えいはない。だって、部署が違うから。彼の機械は今回の漏洩に関して何も関係ない。彼は追跡を受けるほどの罪は何も犯していないのだ。例えアンのプライベートの機械のデータを盗んでも、追跡の対象となるほどの罪ではない。


 例え、会社の存続がかかったデータであることを理由に彼を追跡した場合、彼を罰することはできるかもしれないが、それ以上に罰せられるのは自分であり、研究者として情報漏えいの前科のあるものが、再び研究が出来るとは思えない。


 アンは両手で頭を抱えて叫びながら床を転げまわった。


「アン。大丈夫? 今、どこにいるの?」


 会社がアンの自宅のプライベートな機械にまで捜査を入れてきたら、おそらく、デイヴィットも捜査対象にされるだろう。


 自分の誇りだったデイヴィット。肉体こそまだ創ってあげられなかったが、自分で考え、自分の考えで話し、自分の意思を持つ人造人間。


 それなのに、家宅捜査でデイヴィットを見つけた人たちは、あれだけ誇りにしていたデイヴィットを少女が描く白馬の王子様のようにバカなものを作ったと思うだろう。


 いい物笑いにされるだけ。


 アンは立ち上がると戸棚の引き出しから拳銃を取り出した。


「M社が君の素晴らしい研究を盗みに押し入ってくるかもしれないよ。それに女性の一人暮らしだ。護身用に持っておいたほうがいいよ。」


 昔、デイヴィットにいわれて買っておいた拳銃。


 両手で握ると機械を粉々に打ち砕いた。全てのデータが修復不可能になるくらいに何度も。


そして、アンの名を呟きながら宙を見る狂ったデイヴィットを見た


「デイヴィット、ごめんね。」


 引き金を引くとデイヴィットが消えた。


 デイヴィットの本体はショートして煙を上げたが、止めを刺すように、あと数発打ち込んだ。


「でも、一人にはしないから、安心して。」


 そして銃口を自分に向けて引き金を引いた。




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