第1部 第30章
今まで、どこかでデイヴィットに遠慮していたのだろうか? デイビットに会わなくなってからケリーとの仲は急速に近くなった。
メールやデータのやりとり以上に、実際に会って話すといろいろなことがわかってくる。
ただ、外で会うには人目があって、一緒にデータを眺めながらというわけにはいかないのが難点だったが、研究の話以外の他愛無い会話も楽しんでいる自分に気づいた。
「どうしてもカフェテリアじゃ見せられるデータが限られちゃうわね。」
それほど問題に感じていないのにいってみた。
研究内容の検討という名目であっても、途中途中にはさまれる何気ない会話。彼のしぐさを見るのが楽しかった。
「確かに。君の研究は難解で言葉で言われるだけじゃよくわからない。立体ホログラムで説明してもらえれば、もっと話が正確にわかるのに。」
「ウチに来る? 先週話した螺旋構造について、ホログラムで資料作ってあるのよ。あれを見ればきっとあなたならすぐに理解できるわ。」
「いいの?」
「ぜひ来て。でも手料理は苦手だからね。期待しないで。」
ホログラム作成に時間をかけていたということで、つまみ程度の料理はデリバリィした。
ワインだけは買っておいて冷蔵庫に入っている。
楽しい時間は感覚を狂わせる。
「アン。起きて。僕はそろそろ帰るね。」
ケリーの声がした。いつの間に眠ってしまったのか覚えていない。まだ眠い。起きられない。
目覚ましの音に起こされても、なかなか目が覚めなかった。
会社に着くと、程なく上司に呼ばれた。
またわけのわからないことをいわれるのかと思うと気が重かったが、拒否も出来ないので呼ばれた部屋に入った。
上司はいつものような怒りをあらわにした態度ではなく、どこか震えているかのようにおどおどして見えた。
「単刀直入に聞くが、最近、君の機械からデータが盗まれるようなことはなかったかい?」
いきなりすぎて何のことかわからなかった。
「我々の研究内容がどうやら漏れてるらしい。君の使っている機械をチェックさせてもらえるかい」
「ええ。どうぞ。」
私は職場から機械を何も持ち出したことはないし、職場で余計な無駄話もしない。私の機械から情報が漏れる可能性なんてないわ。
急遽、自分の使っている機械という機械が持ち去られた。これでは全く仕事にならない。ここまで大げさになるほどの情報が漏れてしまったのだろうか?
「この情報漏えいで、今のプロジェクトにかけてきた時間、お金、我々の努力が水の泡だ。。しかも、この情報がよりにも寄ってM社に流れてるなんて・・・。」
上司は頭を抱えた。
「ねえ、アン。ケリーを知らない? 今朝から無断欠勤なんだけど。」
いつも何かとライバル意識で突っかかってくるシャロンが意味あり気にいってきた。
「え?」
頭が真っ白になった。
どういうこと?
心の中で警報が鳴っている。でも頭が混乱している。
「どうしたの? ケリーがどこにいるか知ってるのかしら? 最近一緒にいること多いから。」
シャロンが追い討ちをかけるように何かいってる。
もう聞こえない。
アンは走り出した。




