第1部 第2章
懐かしいきれいな景色。
朝日は地平線にまだ昇っていないが、その存在がありありと判るほど、空が明るくなってきた。
冷たく眠っていた空気もそよそよと動き出した。
薄暗い中、ブルーグレーの濃淡で彩られていた山も、草も、岩も、川も、ものがそれぞれの色に変わっていく。
連なる山々がピンク色に染まってきた。徐々に明るさを増していく。
太陽が地平線から顔を出すと、全てが金色の光に包まれる。
山々はピンク色から金色の光が徐々に増してオレンジ色に変わって行く。
もうすぐ、もう少しで全てが金色に輝き出す。
そこで彼は目を覚ました。
頭が重く、かすんだ視界に夢の中の風景の色が見えた。
金色に変わる前のオレンジ色の光。
「目が覚めた?」
それが人だとわかると彼は身を硬くした。
「怖がらないで。ここは私の家だ。もう研究室じゃない。」
慌てて自分の体を見るとあの拘束具がない。
部屋を見渡すとデスクがあって、何かの機械が置いてある。
本棚には沢山の本がぎっしりと詰まっている。人間の住んでる部屋だ。
「君の許可を得る前に勝手に連れてきてしまってすまなかった。戻りたければいつでも戻れるよ。君を拘束するつもりはないし、ここにいることを強制するつもりもない。ただ、ここがいいかラボがいいか、判断するためにもしばらくはここにいてもらいたいけど。」
オレンジ色の髪の人は優しく微笑んでいった。
「私はルシファ。ご覧の通りジーンリッチだ。」
ルシファと名乗るオレンジ色の髪の人は自分の額のオレンジ色の石を指差した。
その動きはとても優雅で動くたびに明るい髪が炎のように揺れた。
ラフな白いシャツに黒いスラックスが細く長い足を更に優雅に見せていた。
「何からどう説明したらいいのかな? 私の心を読んでくれた方が早いと思うよ。」
ルシファが手を差し出した。彼は反射的に身を引いた。
「違う!」
ルシファの手が止まった。何が? というように髪を揺らして首をかしげた。
「みんな僕が人の心を読むって怖がるけど、もう人の心を詠むことはしない! みんなが僕に恐怖の感情を投げつけてるだけだ!」
彼はかぶっていた毛布を引き上げて体を包み、自分を隠そうとした。
もう、やめたんだ。それなのに、それなのに誰も彼も自分の心を読まれるのを恐れて、化け物! 悪魔! 薄気味悪い! 近寄るな! そんな感情をぶつけてきてるだけじゃないか。
そんな感情から身を守るようにぎっちりと毛布で自分の体を包んだ。
「ごめん。そうだったんだ・・・。」
ルシファは手をひいて1歩下がった。
「で、私は今、君に不快な感情をぶつけてる?」
彼はビックリして顔を上げた。
「私は君に不快を与えてる? 君にとって私は不快なもの?」
何を言われてるのかすぐには理解できなかった。でも、不快は感じていない。
彼は首を振った。
「よかった。もしこの状況が嫌ならいってくれればいい。さっきもいったように私は君に何かを強制するつもりはない。そうだ、喉がかわいただろ? 待ってて。」
ルシファが部屋から出て行くと、知らない部屋で一人残され、なぜか不安になった。
でも何が不安? 状況がまったく理解できない。




