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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第28章

「ただいま。デイヴィット。」


 部屋に入ると、部屋の奥にいる人影に挨拶した。


「お帰り。アン。」



 人影は振り向いて微笑んだ。


 アンは彼の側のソファにもたれた。デイヴィットはそのまま立っている。


「今日も疲れたわ。本気で仕事変えた方がいいかな。」


「またあの上司のせいかい?」


 彼は鼻で笑った。


「そ、あの人が全ての元凶よ。せめて部署が変わらないかしら。」


「それでも仕事は続けるの?」


「そうね。仕事自体は好きなのよ。」


 アンは立ち上がるとキッチンに行ってお茶を入れた。


「大した知識もないくせに、私の研究にいちいち口出しして欲しくないわ。」


 湯気の上がるカップを両手で包んで、再びソファに座った。


「君が怒るのも無理はない。独立して自分の研究所を持てばいいのに。」


「まだ無理よ。そこまでお金がたまってないわ。」


 カップを上げて湯気越しにデイヴィットを見た。更にデイヴィット越しに壁にかかる抽象画のポスターが見える。


「でも必ず私は自分の研究所を作るわ。誰にも邪魔されずに。あなたを作ったようにね。」


「そう、君はとても優秀な科学者だ。」


 デイビットは両手を広げた。


「そうよ。できそこないの上司に邪魔されず、私は私の研究をするの。私の才能をあの上司につぶされてたまるものですか。」


 お茶を一気に飲み干すと立ち上がってテーブルの上のボタンを押した。


「シャワーを浴びて寝ることにするわ。お休み、デイヴィット。」


 デイビットのホログラムが消えた。




「デイビット聞いて! すごいのよ。」


 部屋に入ってくるなりアンは叫びだした。


「どうしたの? そんなに慌てて。」


 デイビットはアンの輝く目を見て微笑んだ。


「私の実力が認められたのよ。ケリーっていう最近、わが社に入った人なんだけどね。」


 息をきらしているアンに落ち着くようにジェスチャーした。


 アンは大きく息をしてソファに座って彼を見上げた。


「今日、初めてゆっくり話をしたの。以前から彼の才能はうわさで聞いてて、1度ゆっくり話をしたいと思ってたの。」


 アンはその時のことをしっかり思い出すように彼から目をそむけて真っ白な天井を見つめた。


「今日、やっとお話できて、彼が私の研究についてとても興味を持ってくれたのよ。今度ゆっくりそれについて聞きたいって。」


「すごいじゃないか、アン。やっと運が回ってきたね。」


 アンは立ち上がってデイビットの目の前に立った。


「今の所、あなたが私の最高傑作。」


 ホログラムを見つめた。


「今の所じゃなく、永遠に僕は君の最愛の人だよ。」


「もっと研究費をかけられるようになったら、あなたにただのホログラムでなく、3次元の体を創ってあげるわ。」


「待ち遠しいよ。今の僕はこうして影でしかない。この部屋からでることができない。君にずっとついていてあげることができないんだから。」



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