第1部 第24章
一面雪の銀世界に沢山の鶴が集まっている。
空気は冷たく鶴たちの息も白くなっている。何百羽といる鶴たちが鳴きながら長い首を上下に揺らし、翼を広げて求愛のダンスを踊っている。
この鶴は翼に怪我をしているのだろう。痛くてうまく動かない羽を必死に広げてダンスを踊っている。しかし、翼は思うように広がらずに痛みで首を優雅に伸ばすことも出来ない。それでも必死にダンスを踊っている。
それなのに、きれいに踊れない鶴はすぐに無視された。
それでもその鶴は必死にみんなと同じように不恰好なダンスを踊っている。
何度挑戦しても無視された。
羽の痛みで群れから少し離れては、また意を決してダンスを踊る。
その度に無視された。
何度も、何度も、繰り返し・・・。
季節は巡り、仲間はみんな渡りで飛び立って行った。
羽を怪我している鶴は飛ぶことができずに、取り残されたまま。ひとりぼっち。
食べる物もなくなってきて、気候も体に合わなくなってきた。
弱っていく体を必死に動かして鶴は踊った。
みんなに会いたい。みんなと同じになりたい。ただ一心にそれだけを思って踊った。
「どうせ、冬まで生きられないよ。」
人の声がして、猟銃の音が響き渡った。
「君は・・・、こんな風に見えてるの?」
ルシファの言葉にギルが振り向いた。
「見えたの?! ルシファにも見えたの?」
ギルは信じられないというようにルシファの手を強く握った。
「見えたっていうのとはちょっと違うと思う・・・。」
その時、今まで静かで気にならなかったBGMが早い曲に変わった。
「閉館になる。答え合わせは家に帰ってからにしよう。」
椅子に座ってお茶を飲むと、期待に満ちたギルの視線に耐えられなくなった。
何が起こったのかよく理解できなかった。
「見えたってうのとは少し違うけど、おそらく君が見えてるものを少しは感じたのかもしれない。」
ギルが見たものを話してもらったら、大筋同じ内容だった。
「ルシファはね、心にブロックがないから、受け取れるんだよ。」
ギルはうれしそうにはしゃいでいた。
「心を読んでいいなんていうくらい、ブロックがないんだから。」
「私は昔からこうだよ。でもさっきみたいなことは今までなかったよ。」
「それでも僕が感じたことを、見えてるものを、ちょっとでも一緒に感じてもらえたなんて、僕、うれしいんだ。」
ふと言葉を止めた。
うれしい?
「今・・・、僕はうれしいんだ。心からうれしいんだ。・・・ちゃんと、ちゃんと感じてる。」
今まで自分にちゃんとした感情があるとは思えなかった。キャッシーがあんなにうれしそうに自分に会いたがってくれてるのが理解できなかった。キャッシーもこんな感じで僕に会うのが楽しいと思ってくれてたの?
何かが心の中で変わったようだった。
「僕、あの鶴と同じだったんだ。みんなと違うことがとっても辛かった。でもあの鶴は諦めなかった。最後まで、諦めずにがんばってた・・・。」
「君もよくがんばったよ。」
ルシファの手が頭に乗せられた。
見上げるとルシファが満足気に微笑んでいる。
「僕、いていいの? 生きてていいの?」
「生きてていいとか、そんなこと誰にも決める権限はない。庭の花と同じ。ただここにいる。それだけだ。まあ、私の望みをいえば君にいて欲しいけどね。」
なぜか涙が流れてきた。この前とは違う。相変らず理由はわからないけれど、ちゃんと自分が泣いている事を感じている。
「だって・・・だって僕は、みんなと違う・・・。」
「庭の花を見ただろ? 黄色い花も、赤い花も、違って当たり前なんだ。あの青い花。私が処分になるのを植えた花。あの花は私が庭に植えた後、自分の力で根を伸ばし、自分を卑下することなく美しく咲いてくれた。そうだろ?」
ギルは抑えきれずに声を出して泣いた。何故泣いてるのかわからない。でも止められなかった。
「全部、吐き出しておしまい。」
ルシファは優しく髪を撫でていた。




