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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第1部 第23章

「ここが『ステーション』だ。ここからどこへでも行ける。といっても行く先にステーションがなきゃ無理だけど。」


 今まで入った事のない部屋に入ると壁にいくつもの点滅する光があるだけ。壁全体が機械になっていて、部屋自体には何もなかった。


 壁のキーボードを叩くと細い光がルシファの額の石に当てられた。


「君もジーンリッチになって石があれば好きに使えるよ。」


 部屋の真ん中に立つように手を引いた。


「行くよ。」


 何が起こったのかわからないうちに、目の前の風景が変わった。


「さあ、行こう。」


 いつの間にか出現した目の前のガラスのドアが開いた。


 あっという間に博物館のステーションにいた。


 広い廊下、廊下というよりも部屋がどこまでも伸びているような広さ。


 向こうから人が歩いてくる。


 ギルはルシファの後ろに隠れるように歩いた。


---見つけないで。僕を見つけないで。---


 心の中で必死に祈った。


 恐怖で目を開けていられない。ただ必死にルシファの服を握って歩くだけしか出来なかった。


 駄目だ。やっぱり僕には無理だ・・・。


「座って。」


 肩に手を乗せられて我に返った。


「博物館に来て目を閉じてたら意味ないだろ。」


 ルシファの顔を見て安心した。促されるままに椅子に座った。


 ルシファは片膝を着いて顔を覗き込んだ。


「落ち着いて。今君を傷つけるような感情を感じるかい?」


 首を振った。そういう感じはしていない。


「向こうから人がくるよ。どう? ちゃんと感じて。怖い?」


 人の姿を見てびくりとしたが何とか周りの空気を感じてみた。


「大丈夫。」


「私はここにいる。大丈夫だからちゃんと感じるんだよ。」


ルシファは微笑むと立ち上がって、頭を撫でた。長い前髪が目にかかって、振り払おうとした時、


「すいません。動物の展示室はどこですか?」


 歩いてくる女の人に話しかけた。


 ギルは咄嗟にルシファの手を握った。


 折角、僕に気付かずに通り過ぎてくれると思ったのに、なんてことを!


「すぐそこよ。」


 彼女は足を止めて答えた。ギルは息もできずに目を見開いて恐怖に耐えた。



「どうしたの? 」

 ギルのただならぬ様子に女性はギルを見た。ギルは頭から顔から血が引いていくのがわかった。


「さっき、ショッキングな映像を見てね。気分がよくないらしい。」


「まあ、あの洪水の映像でも見たの? 私もあれを見たとき、恐怖で立てなくなったわ。」


 心配するように女性は微笑んだ。


 ルシファはずっと頭を撫でている。


「すぐそこの展示室にはかわいい動物がいるから気分直しに見てらっしゃい。閉館時間が近いから、早く行った方がいいわよ。」


 女性は手を振って2人から離れて行った。


 女性の靴音がかなり遠くなると、ルシファが大きく息を吐いた。


「スリル満点。さあ、早く行こう。」


 つかまれてる手を引いてギルを立たせた。


「彼女から嫌な感情が来た?」


 首を振った。でも足はまだ震えている。


「ぼ、僕が叫び出したらどうするつもりだったの? ラボにいた時のように。」


 声が震えた。


「さあ、その時考えるさ。もう君はあの時の君じゃない。大丈夫だと思ったよ。それより君の額に石がないことがバレる方がドキドキしたよ。石のない人がこんな所にいるのは違法じゃないけど、珍しすぎるからね。」


 それでずっと頭を撫でて前髪で額を隠していたのか。


 ルシファはいつでもちゃんといろいろなことを考えてる。心配しないでも大丈夫。こわばった体がほぐれていった。


「急がないと博物館で人間だけしか見なかったことになるよ。」


 足早に近くの部屋に入ると、ガラス張りの中に何体もの動物が陳列されていた。


「剥製だ。死んだ動物をそのままの姿で保存してる。」


 部屋の中には人影がないことを確認すると、ギルは手すりにつかまってガラスの向こうの動物たちを見た。


「この鳥・・・。」


 ギルは1羽の鳥の前で固まった。


「クレイン・・・。鶴だ。」


 長い首を天に向かって伸ばし、大きな翼も、今、まさに大空に飛び立とうとするかのように大きく広げ、足は助走をしているようだった。


「かわいそう・・・。」


 何をいってるのか、ギルの顔を見ると、泣いていた。


「この子、とっても辛かったんだ。」


 鶴から視線を外すことなく呟いた。


「君は死んでる動物のこともわかるの?」


「伝わってくるんだ。この子の悲しみが。ルシファにも伝わらないかな?」


 鶴を見たままルシファの手に自分の手を重ねた。


 すると、ギルが何をいっているのかわかった。


 目の前に、目に見えているのは動かない鶴なのに、五感の視覚は目の前の鶴を見ているのに、わかるのだ。昔見た映画を思い出すかのように、五感の目が見ていなくても見えるのだ。しかも一瞬で全てが。



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