第1部 第19章
「気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど・・・。」
安心しろというように微笑んでる。
「僕、うれしいはずなんだ。ルシファやキャッシーがしてくれること、思ってくれること。全てうれしいはずなんだ・・・。」
言葉が詰まったが、勇気を振り絞る間、ルシファは身じろぎ1つせずに待っていた。
「でも、わからないんだ。頭では感謝してる。でも感情っていうのかな、心の奥底から何かを感じていないんだ。うれしいって心が思ってないんだ。キャッシーにはずっと会いたいと思ってた。でもいざ会うことになったら怖くなったんだ。うれしいなんて思えなくて。」
折角の2人の思いをちゃんと受け取れてない自分に憤りを感じた。
「よくそこまで自分と向かい合ったね。キャッシーの所へ行ってヘトヘトになったかいがあるよ。」
優しくルシファがいった。
不機嫌にさせると思っていたギルは顔を上げた。
「君はずっと感情を殺すことを学んできた。自分は幸せになっちゃいけないって呪いで、幸せを感じることを全て抑えつけてきた。自分が大切にするものはぬいぐるみの犬のように奪われる。大切なものは作っちゃいけない。幸せになっちゃいけない。うれしさを感じたら、辛い現実に突き落とされた時の痛みは倍になるからね。」
そうだ、いつも母さんにいわれていた。幸せになんかさせない。させるものかって。でもそのセリフは自分でも自分に対していっていた。自分は幸せになんかなっちゃいけないと。
「自分の感情を押さえつけてばかりいると心と頭が切り離されるんだ。1度切り離されるとつなぐのにそれなりの努力が必要になる。」
悪魔と呼ばれ、自分でも自分は悪魔だと思っていた。人間の心など持ち合わせてないのかもしれない。
「だから私は突然キャッシーと会わせたんだ。君の頭が『自分は悪魔』だとか『会う資格はない』とかいろんなブロックを入れる暇をあたえたくなかったからね。案の定、真っ白な頭で邪魔しなければ、君はあんなにスムーズに話ができた。心からキャッシーにお礼がいいたかったから、頭の邪魔なく素直にいえたんだ。」
ちゃんとお礼が言えた自分にビックリしている。
「君は感じてないんじゃない。頭がそれをキャッチできないだけだ。現にさっき君は泣いたろ?」
「わからないんだ。なんで涙が溢れてきたのか。」
「体は正直なんだよ。頭で理解する前に体は反応する。目の前に物が飛んできたら咄嗟に避けるだろ? 頭で考える前に。君の感情は正常だよ。後は切り離された頭と感情をつなぐだけでいい。」
正常? 僕がダメだからじゃないの?
「みんなそれで苦労してるんだよ。恥ずかしい過去の話をされたとしよう。そんな話をした相手に対して怒りを感じるだろう。心は恥ずかしがってるのに、認めたくなくて頭がいろんないいわけをして、結局相手のせいにする。よくあることだ。」
「どうすればちゃんとつなげることができるの?」
「頭に邪魔させない。頭に言い訳を考えさせない。ちょっとでもいい、何かを感じたらそれが何なのか頭で考えずに、ただそれに浸ればいい。」
「難しいよ。」
「そうだね。ベッドに入ったら楽しかったことを思い出してごらん。ないとはいわせない。君が頭で『でも・・・』って否定してるだけだ。犬のぬいぐるみを撫でてた時どうだった?
その後のことは考えちゃだめだ。撫でてたその時にだけ集中して。」
ルシファのいうことは難しくてとてもできそうにはなかったが、ベッドに入ると犬のぬいぐるみを思い出した。おぼろげながらイメージすると、その手足がバラバラになったことを思い出した。
ダメだ! ダメだ! ちゃんと頭を撫でてる所だけをイメージしなきゃ。
目を見開いて大きく深呼吸してもう1度思い出してみる。
あの子の毛は長くてふわふわだった。そうこんな感じ。撫でると毛が動いて、表情が変わるんだ。耳の横の毛を撫でた時の顔が1番凛々しくて好きだった。
いつの間にかどんどんイメージがでてきた。両手で顔を挟むんで上から見下ろす角度にすると、幼いかわいい顔に見えた。大抵話すときにはその角度だった。
「ねえ、僕ね、今幸せになれたんだ。あの時はとても想像ができなかったような、とってもステキな生活をしてるんだよ。」
犬に見せたい今の生活。光の天使と、赤い髪のお茶目な女の人。新しい服においしいケーキ。次々にここでの生活の場面が浮かんできた。




