第1部 第18章
どうしよう。とんでもないことになってしまった。でも今更引き下がれない。
震える手で部屋のドアを開けた。
「ここに座って。」
机の上に何かの機械がセットされている。
目の前の椅子に座らされた。
「5分だけだよ。5分したら話が途中でも切るよ。ま、多分、途中で切ることになるだろうけどね。」
心臓が早鐘をうつ。拘束具なんてないのに椅子に縛り付けられてるかのようだった。
「その緊張もすぐに吹っ飛ぶよ。吹っ飛ぶのは緊張だけじゃないと思うけどね。」
ルシファの指が機械に触れた。
すると目の前に突然、女性が現われた。
「ギル! 会えてうれしいわ。キャッシーよヨロシク。」
女性が手を伸ばすので慌てて自分も手を差し出した。ただの映像は触れることがなかったが、女性は満足げにその手を重ねた。
彼女は20代後半だろうか。赤毛をポニーテールにして額の石はさっきのラズベリィのような赤。快活そうなその声と同じにスポーティなTシャツにジーンズという格好だった。
「私もっとかわいい感じの子を想像してたのに、すっごい美形じゃない! 今度の服は路線をかえるわね。」
「服と・・・タルトとパイ、ありがとう。すごくおしかった。」
ずっとキャッシーに会えたらいわなきゃと思っていたセリフを何とかいえた。
「まあ、本当? 今度は何が食べたい? 早く体力つけてうちにいらっしゃい。私の庭にはいろんな果物や野菜があるのよ。好きなもの選んでくれれば腕によりをかけて私が料理してあげる。 どうせマトモなもの食べさせてもらってないでしょ?」
いっきに話しまくる合間に何とか答えた。
「スープを作ってくれたよ。」
「お腹、壊さなかった?」
「ひどいいわれようだな。」
振り向くとマトモに話す気はないというように椅子を横に向けて窓をみながらルシファが呟いた。
「お、おいしかったよ・・・。」
「そこが嫌になったらいつでも私のところにいらっしゃい。ここはいい所よ。ルシファの家みたいに殺風景じゃないもの。ああ、早く来られるようにならないかな。私、あなたに見せたいものが沢山あるの。食べてもらいたいものもね。私があなたに早く会いたいっていったらルシファなんていったと思う?」
振り向いてルシファを見るとそ知らぬ顔で顔を背けている。
「ダメだって。その理由がひどいのよ。『彼は感受性がいいからお前のアホがうつる』っていったのよ!」
ギルは応える言葉がなかった。
「今日は本当にありがとう。楽しかったよ。時間だ。」
ルシファが突然機械の前に立った。
「ちょっと待ってよ、折角お話できたのに!」
「アホがうつる。」
目の前のキャッシーが消えた。
「な? 変な人だっただろ?」
ギルは反応のしようがなかった。
「緊張以外にもぶっ飛ばされたようだな。」
クスクス笑っていった。
「思ったより君の順応性はいいんだね。キャッシーのあのマイペースに押されずにちゃんと話してた。私はキャッシーが一人でベラベラしゃべってタイムアップになるかと思ってた。」
自分でも改めて驚いた。ちゃんとお礼がいえたなんて。いえなかったらどうしようと不安になってたのに。
なんとなく1つクリアできたようで心が軽くなった。
そのせいだろうか、今日1日悩んでいたこと、まだ言葉にできるほど自分の中でもまとまっていない考えをルシファに聞いてみたくなった。
どうしようかと悩んでいると、ルシファは察したらしく、自分の正面に椅子を持ってきて座った。




