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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第2部 第70章

 突然、いつの間にかそばにいたリロが鼻先でギルの背中を押した。しびれた足は絡まってそのまま地面に倒れ掛かかるところを、ルシファはすぐに抱きとめた。


「リロ! なにするんだ。」


 すぐにリロを追いかけようと思ったが、ルシファが抱きしめたまま腕を離さなかった。


「ごめん。ギル。守れなかった。・・・君の大好きなこの世界を、守れなかった。」


 ルシファが泣いている。


 ギルはどうしていいのかわからなかった。


 心臓が早鐘を打っている。


 ルシファをどう慰めたらいいのか、まるでわからなかった。


 いつも自分が泣いていた。そして、ルシファは思いっきり泣かせてくれた。


 それなのに、自分は耐えられなかった。大切な人がこんなに苦しんで泣いているのをじっと耐えるなんてできなかった。


 リロが優しい目でルシファの震える肩に顔を寄せていた。


「ルシファは神になりたかったの?」


 リロの優しい目を見ながらいった。


 ルシファは何かがわかったような気がした。


 ずっと、ずっとわからなかったこと。ルシフェルはなぜ神に反逆したのか。


 こんな美しい、誰もが愛する世界を期限付きで創造したことが許せなかったのかもしれない。こうして滅んでいくことを前提に、なぜ、創造したのか。破壊されてはまた新しい世界が創られる、常に変化し、とどまることを許されない世界。


 ルシフェルはそれが許せなくて、反逆し、地獄に落とされ、人間たちに警告し続けた。この世界はいつか終わる、お前達も死ぬ。永遠に守れるものなんて何もないことを。


そしてそんな非情なことをいうルシフェルを人間は悪魔と呼んだのだろう。


「ルシファは人間だ。僕と同じ人間だ。人間が全てを救うことなんてできないよ。」


 リロが「そうだよ」というようの顔を動かした。


「人間なんてとても小さくて、あの船だって人間が一人で創ったんじゃない。沢山の人が、ルシファを信じる人たちが大勢集まってやっと創ったんだ。それでも限られたものしか救えない。お父さんだって、ずっと以前からわかっていたのに、救えなかった。だから、救うことができないから。新しい地球再生の計画を立てたんだ。」


 ギルは涙がこみ上げてきて、押さえ切れずにルシファを抱きしめた。


「そんな小さな人間なのに、ルシファはあの船をちゃんと創ったんだ。大勢の人たちを救ったんだ。悪魔になってでも!」


 大勢の人たちが災害で大切な人を亡くして、何も出来ずに泣いてるだけの人もいる。


 そんな現実見たくなくて、今は安全な世界で何も考えずに生きている人もいる。


「でも僕はちゃんと自分の人生を歩んでる! キャッシーみたいに、ちゃんと自分の人生を! それはルシファがいてくれるからだ。ルシファは神になんてならなくていい! ルシフェルみたいに血も涙もない機械なんてならないで! こうして僕の苦しみも、死んでいくものの苦しみも、全部わかってる、全部感じてる人間のルシファでいて!」


 ルシファの腕の力が強くなった。


----苦しいよ。・・・苦しいよ。ルシファ。----


 息が苦しい。


 天使にも悪魔にもなれるかもしれない、もしかしたら神にすら。その中で人間でいることが1番つらい選択なのかも知れない。


 自分の翼を引き裂く天使のルシファが思い出された。


 それでもルシファには人間でいて欲しかった。


「動物たちを救いたいよ。もちろん、救いたいよ・・・。でも、僕にはそんな力はない。僕にはできない。」


 キャッシーは自分の出来ること、おいしい食事を作って、多くの人を笑顔にすること。それが自分のしたいこと。それを最後まで貫き通して、ちゃんと自分の人生を生きていた。


 自分が本当に今したいことは。


「ルシファが苦しんでも、それでも僕はルシファと一緒にいたいんだ。」


 もう言葉が続かない。



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