第2部 第71章
どれくらい泣いていていたのだろう。まるで眠っていたかのように時間の感覚もなく、頭が朦朧としている。
ルシファの腕の力が抜け、頭を撫でてくれた。
顔をあげると、涙を拭こうともしないルシファの顔があった。
その女性的なきれいな脆い顔を見るのが苦手でギルは目をそらした。
「もう少し、柵を壊す。」
慌てて腕をほどいて柵に戻った。
さっきのような狂ったような力が出ない。柵の丸太がなかなか折れない。
困って柵から目を上げると、ギルが無茶苦茶に壊した柵の丸太をルシファが抱えて集めていた。
「なにしてるの。汚れちゃうよ。」
慌てて駆け寄った。
「このままにしておいたら、馬が踏みつけた時、怪我しちゃうじゃない。」
リロが珍しそうに散らばる丸太の破片の匂いをかいでいる。
「ほら。危ないっていってる。」
ルシファはリロの鼻先にある木片を拾った。
「デスクワークは得意でもフィールドワークは苦手でしょ?」
「随分ないい方だね。確かにそうだけど、これぐらいやらせてくれてもいいじゃない?」
抱えた丸太を木の根元に積み上げた。手や腕に付いた土を払い落とすと、手首に痛みを感じた。手首をみると鋭い木の破片が何本か突き刺さっていた。
ギルは慌てて、破片を引き抜くと、傷口から血が流れ出した。
「君が無茶苦茶に壊すからだよ。」
「医務室に行こう。」
ギルは震えた。
「大げさな。すぐに血も止まるよ。」
そういって手首を口に当てた。
「それより、もう少し壊すんでしょ?」
「そんなことしてられないよ。」
ルシファの手首を掴んで見ると、血が流れている。突き刺さった破片はかなり深くまで刺さっていたようだ。
「私の言動が君を苦しめるのが1番嫌なのわかってるでしょ?」
ルシファは手首を掴む手を振り払った。
「出血多量で輸血が必要なわけでもない。やっておいで。」
ギルは迷った。その迷いを感じたのか、リロがルシファに寄り添った。
気付くと、他の馬たちもルシファを囲んでいる。
「野次馬とはよくいったものだね。そんなにたかが木を拾っただけで怪我をする軟弱ジーンリッチが珍しいかい?」
笑って馬たちの首筋を撫でた。
「馬たちが私を守ってくれるようだから、安心して。」
確かに、好奇心旺盛な馬は珍しいものがあるとみんな集まってくるが、匂いをかいで確認したら、すぐまた自分のしたいことに戻るのに、馬たちはずっとルシファの周りに立っていた。
「私は柵を叩き壊す、男らしいギルを見てるよ。」
クスクス笑いながら、馬たちを撫でていた。
ギルは逃げるように柵に行くと、丁寧に柵を壊した。丸太はきれいな切り口に切れていて、さっきのような鋭い破片にはならなかった。
どんなに自分に正当な理由があろうとも、怒りで行った行動は誰かを傷つけるのかもしれない。




