↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
PR
153/171

第2部 第65章

キャッシーは更生病院にいた。いつものように、患者のための食事を配っていた。


 どんな更生プログラムでも成果の出ない患者も、キャッシーからお弁当を受け取るときは表情が和らいだ。


 たったその1瞬でもいい、とらわれてている闇から開放されて微笑むことができるなら。その微笑を見るために、こうしていつも大量の食事を作って病院を訪問しているのだ。


「おいしかったかしら?」


 ベッドの上でキャッシーが作ったマフィンを食べ終わった女性が、無表情のまま頷いた。歳はキャッシーよりも少し若い。小さくて細い体をしていた。


「あなたの髪、触っていい? ぼさぼさよ。梳かすわね。」


 キャッシーは彼女の髪をゆっくりと丁寧に梳かした。


「あなたこんなにきれいなんだから、早くよくなって、素敵な彼氏を捕まえなさい。」


 ブラシを棚に戻そうとした時、突然、部屋が揺れ出した。


 まさか、ここが、地震? ただの小さな地震じゃない!


 キャッシーは大きな揺れの中で必死に入り口のドアを開けた。


 しかし、揺れで歪んでしまったドアは少ししか開かなく、それでもキャッシーは力を込めて開けようとした。


「早く、早くこっちにいらっしゃい。そこにいたら潰されちゃう。早く、ここから出るのよ!」


 手を離したら、折角ここまで開けたドアが閉まってしまいそうで、ただベッドの上で震えている彼女に叫ぶことしかできなかった。


「早く!」


 手を伸ばした時、なにかの衝撃で1瞬意識が遠くなった。


 次に見えたのは、白い天井。見えるものはそれだけだった。


 私、どうしたのかしら? なんだろう? 頭がはっきりしない。なぜ私の体、動かないの? 本当に動かないのかしら?


 足を動かそうとしたが、全く自分の足がどこにあるのかわからなかった。手を動かしてみる。自分の顔の前に持ってくると、ぼやけた手が見えた。そして、キャッシーを覗き込む心配そうな彼女の顔が見えた。


「早く、行きなさい。私は大丈夫よ。」


 ぼやけた視界に彼女の微笑が見えた。


 よかった。彼女がやっと微笑んでくれた。よかった・・・。


「この部屋を出て。」


 彼女の顔が見えなくなった。


 私、もう死んじゃったのかな? 体の感覚がない。でも少し、手の感覚がある。しびれていてよくわからないけど、しっかりと胸に下がるペンダントを握り締めた。かすかに石の感触を感じられた。キャッシーは微笑んだ。


----よかった。今日このTシャツ着てきて。----


 どうしてか今日はすごく着たくなったギルが選んだこげ茶色のウサギのTシャツ。


 キャッシーは目を閉じた。


 目を閉じた世界ではみんながいた。ルシファもギルも友人たちも。そしてアランも。


----次の世界では、ジーンリッチもナチュラルもない世界で会おうよ。----


 幸せそうに微笑んで立っているルシファもギルも額に石はなかった。 


 そして自然が豊かで花が咲き乱れ、動物達が走り回ってる世界。


----アランったら、こんな時までオオカミと一緒なの?----


 ルシファとギルの前に立っているアランの足元にはオオカミがいた。


----オオカミといてもいいけど、私が1番じゃなきゃ嫌よ。----


 アランが両手を広げた。キャッシーはうれしくて彼の所へ走っていった。


 その腕に飛び込んだとき、世界が光に包まれた。




 ルシファの手がギルの肩に乗せられた。


 見上げるとルシファが微笑んでいた。


 ギルはゆっくりと石から手を離した。手の下にあった石は心なしかその光を失ってしまったように見えたが、代わりに胸に光る赤い石がキラキラと輝いていた。


 ルシファは無言のまま肩に置いた手を引き寄せた。アランに何かいいたくてルシファを見たが、静かに首を振るので、何も言わずに部屋をでた。



 

 戻ったのはヴィレッジではなく、家だった。


 久しぶりの家。


 キャッシーと初めてホログラムで会ったのはこの部屋。初めから笑顔が印象的でとっても明るく、お姉さんのように接してくれた。いろいろなことを教わった。

 キャッシーがいてくれなかったら、きっと外の世界に順応するのに時間がかかっただろう。彼女はその明るさと力強さで、自分をどんどん導いてくれた。


 沢山の素晴らしい体験をさせてくれた。キャッシーじゃなきゃできなかったことばかり。


「見せてくれてありがとう、ギル。キャッシーが苦しまなかったのがわかってほっとした。」


「最後までキャッシーは自分らしく生きたんだね。最後まで笑顔で、最後まで人の幸せを喜んで・・・。」


 突然すぎて涙もでなかったのに、今頃になって涙があふれてきた。


「キャッシーに会いたい! どうしてキャッシーがこんな目にあうんだ。もう少しでアランと一緒に暮らせたのに。どうしてこんなに急に、突然すぎるよ。酷いよ。ひどい・・・。」


 ギルは泣き叫んだ。もうキャッシーに会えないなんて、信じられない。もっともっとキャッシーと一緒にいろんな世界を見たかった。大好きな自然が人間の為にしてくれること、一緒に探したかった。あんなに楽しかった一緒の時間がもうないの?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。