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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第2部 第62章

 月の事故のせいだろうか、ヴィレッジにやってくる人たちが徐々に増えてきた。


中には自家発電の話を聞きつけ、ぜひとも自分はそれに係わりたいという人もいた。


 みんな、真剣に考え始めている。


 「どこかへ避難しなければ」そこから始り、自分が助かるにはどの避難所やコミュニティが合うのかを考え始めた。避難所建設は星の数ほどの団体が行っている。それぞれに特色があり、「避難所難民」と呼ばれるくらい、自分がそこで暮らすのは苦痛すぎるといろんな避難所を渡り歩く人たちまでいる。しかし、それもまだ数が増えてきたというだけで、ほとんどの人が他人事のように過ごしていた。


 ヴィレッジにやってくる人はそんな人たちも多少いたが、圧倒的に多いのが「自分が何をできるのか」を求める人たちだった。自分が助かればそれでいいと思う人達はどこの避難所に行っても、狭い、快適じゃない、拘束が多いと文句をつけては自分の理想の避難所を求めていたが、ヴィレッジにくる人たちは、もう自分が生き残るとかは問題ではなく、今、自分がやれることができる所を求めている人たちだった。意識の高いジーンリッチは自分の体が生き残れないことを受け止め、せめて自分の才能を発揮できる場所を探すようになってきた。


 ヴィレッジを訪れる人が増えると、ギルの雑用は増えた。訪問者が使うホテルの清掃、野菜の収穫、その他、ギルを見かけると何かとお願い事をされた。そんな忙しい中、動物達といる時間は欠かせなかった。


 今日もヘトヘトになってログハウスに帰ると、ルシファとキャプテンがいた。

「お疲れ。君の仕事は大変になったけど、おかげで私たちは時間ができるようになってね。」


「本当にここの所、みんながどんどん計画を進めてくれるので、我々が口出す部分がなくなってしまったから、こうしてゆっくりできる。」


 キャプテンはお酒を飲んでいた。頬がうっすらと赤い。


ソファに座ったギルにルシファがお茶を入れてくれた。


「君もお酒を飲んでみる?」


 からかうようにいうルシファはお茶を飲んでいた。


「ルシファのファンが君といる所を見たら、君は八つ裂きにされるよ。」


 キャプテンもからかった。


「ルシファのファン?」


「ルシファに会いたくてヴィレッジにくる人もいるんだよ。ルシファのあの悪魔のような演説で去っていったジーンリッチたちも、必死に自分が助かる方法をさがして、探せば探すだけ自分の体は耐えられない。新しい地球では生きられない。それを実感していくだけ。残された今を大切にするには、奇麗事だけ並べた避難所でかごの鳥になるより、全てを知った上で、受け入れた上で行動しているヴィレッジに戻ってきた。ルシファのようにその場しのぎの奇麗事など言わずに、全てを教えて導いてくれる者を求めてる。

まさにルシファ教だよ。」


 キャプテンは満足そうに手の中のグラスを見た。


「冷酷なまでに緻密で正確な分析能力は研究者にとってはかなり魅力的らしい。」


「だとしたら、父は大モテですよ。」


「あんな悪魔のルシファより、笑ってるルシファの方がもてると思うけど。」


 ギルの言葉にキャプテンは笑い出した。


「確かにそうだね。そのルシファを独り占めしてる君は幸せ者だ。」


「うん。僕ほどラッキーで幸せな人っていないと思う。」


「私もかなりラッキーだよ。計画当初の頃から考えると、信じられない状況だよ。」


 キャプテンがほろ酔い気分でいった。


「あの時は全てが壊れてしまったような感じだった。」


 本当にあの時は苦しかった。何が正解かはっきりわかっていながら、それでも答えを求めているパラドックスに陥っていた。


「今は信じられないくらいみんなが協力し合って、一つのことを成し遂げようとしている。みんなが活き活きとしている。」


「夢が叶いましたね、キャプテン。あなたが創りたかった、分け隔てのない世界。私はあなたの夢を台無しにしてしまったと思いましたが、ここは今はアニバーサリー・ヴィレッジそのものです。」


 ルシファはキャプテンの持つグラスに自分のグラスを当てて乾杯した。


 ギルはルシファは何でも人の願いを叶えることができてしまうのかと思った。


「私が今日、ここへ来た目的を忘れる所だった。」


 慌ててキャプテンはソファに座りなおすと、深々と頭を下げた。


「君たちに感謝する。君たちのおかげでこんなにここは活気付いて、更に新しい地球に向けての船まで創っている。本当に君たちのおかげだ。今日はお礼がいいたくてここにきた。」


「お礼だ何て。私の我侭な計画を認めてくれるだけの力がヴィレッジにあったんですよ。それを創り上げてきたのはあなただ。」


 キャプテンは頭を上げない。


「キャプテンがヴィレッジをこんな素敵な所にしてなかったら、あの変なおじさんも自分の大切な研究を提供してくれなかったよ。」


 ギルもキャプテンをねぎらいたかった。


「歳のせいかね、酒のせいかね、涙もろくなるのは困るものだ。」


 頭を下げたまま、顔をぬぐった。



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