第1部 第15章
ギルはずっと気にしていたことをルシファにいってみた。
「ねえ、僕、留守番できるから、どこか出かけてきたら?」
ずっと自分の近くにいてくれるのはうれしかったが、そのせいでルシファがやりたいことができないのではないかと不安だった。
「どうしたんだ? いきなり。」
「いろいろなことがありすぎて、頭の整理がしたいんだ。」
「確かに時間は必要だね。でも、元来、私は出不精でね。特に用事はないんだが・・・。」
ギルの提案を受け入れようにも、どこへ行くか当てがなかった。
「キャッシーの所は? 僕、キャッシーに会ってみたい。もちろん、今すぐには無理だけど・・・。」
言葉をそこで終わりにしようかどうしようか悩んだが、ルシファが続けてご覧、というように黙って待っていた。
「それに、キャッシーが僕のことを全て知った上で会いたい。僕のことを知っても、まだキャッシーが会いたいと思ってくれるなら・・・。キャッシーに僕のこと全て話してもらえる?」
「わかったよ。ただし、キャッシーがうちに押しかけてこないって条件を飲んだらだよ。」
キャッシーに連絡を取ると大喜びで来るようにとのことだった。
「何かあったらこれを押せばすぐに帰るから。」
机の上の何かの機械を指差した。
部屋を出て行くルシファを追いかけたくなったが、何も心配することはない。ルシファがいなくなるなんてことはないと心に言い聞かせた。
一人っきりの静かな部屋。
ラボの記憶がかすかによみがえってくる。
慌てて辺りを確かめる。大丈夫。ここはラボじゃない。ルシファの家だ。
ブラインドを少し開けてみる。部屋がかなり明るさを増したが、また世界が光に飲み込まれたら倒れてしまうだろうから、ほんの少しにした。
目を開けているにはまぶしすぎるが、ベッドに横になって目を閉じている分には平気だった。少しでも外の明るさに慣れたかった。
思えば何が起きたのだろう?あまりにも突然にいろんなことが変わってしまった。
変わった? 何が?
どうしてこんなことになってるんだ?
始まりは?
ああ、そうだ、ラボに天使が降りてきたからだ。
あの時から真っ暗な生活に光が差したんだ。
あまりにも不思議な人。やることなすこと、考え方から外見まで、あまりにも不思議だった。
目が覚めたとき、ルシファがいなくてパニックになったのは、心のどこかで裏切られたような気分がしたからなのかもしれない。
母の虐待から保護された時、母と離れることに不安はあったが、心も体も限界だった。
正直「助かった」と思った。
しかし、ラボで会う人は皆自分を恐れ、母と同じに「悪魔」とののしった。その感情に恐怖し、逃げ、暴れるたびに殴られ、縛り付けられた。
またラボから出ても「助かり」はしないのかもしれない。今度こそ助かるかもという期待が崩れたような気分になったからだ。
ルシファのいうように新しい人生をはじめたい。心からそう思っているのに、どこかで諦めてる。
何もかも諦めてきた。これがルシファのいう癖なのだろう。




