第2部 第59章
ウサギにまた草を取ろうと思ってエリアに入ると、昨日のケージの白いウサギがいた。
「みんなの所に戻れたんだね。」
そのウサギの隣で草を食べているのは、昨日、ここの草を取りなさいというように隣にいてくれたグレーのウサギだった。
「君の友達だったんだね。」
安心して2羽を撫でると、馬の所へ行った。
薬は問題なく食べてくれた。
「まだ薬は飲まなきゃいけないだろうけど、これでよくなるよ。」
首や肩を撫でると、生き物のぬくもりが伝わってきた。とてもいとおしくて、その大きな首に手を回して抱きついた。丁度、自分の心臓の位置で馬の心臓の鼓動が聞こえた。
----大丈夫よ。----
誰かに言われた気がしたが、耳で聞こえたわけではない。たださっき誰かに言われたことを思い出したかのように、何だか暖かい気分になった。
「おい、そこのぼうず。」
突然の声に振り向くと柵越しに見知らぬ老人が立っていた。
ギルはむっとして柵まで行くと、軽々と柵を越えて老人の目の前に立った。
「僕はギルです。ギルバートです。」
ぼうずじゃない! 叫びそうなのをこらえて手を出した。
「わしはヘンリーだ。」
老人は軽く握手するとすぐに手を離した。
その態度は元より、その格好も奇妙で、白い武道でもしそうな服に額には赤いバンダナ。髪は真っ白で伸び放題。キャッシーが見たら悲鳴をあげるような格好だった。
「初めてここに来て何もわからん。案内してくれないか?」
「ここはとても広くていろんなものがありますよ。どんな所がいいんですか?」
「そうだな。君が1番ここらしい、君が1番ここを好きだと思う所がいいな。」
「全部ですよ。案内なんてできませんよ。」
ギルは困り果てた。あまりにもこの老人は常識を逸脱している。
「君はここの何が自慢なんだ?」
ギルは必死に考えたが、どうせこのおかしな老人に筋道たてて話そうとするだけ無駄だと思った。それならこっちも話したいこと適当に話せばいいか、と開き直った。
「ここはジーンリッチとナチュラルが何の分け隔てなくいられる所です。どっちが優れてるとか差別がまったくなくて、それぞれが自分の出来ることをやる。誰でも何かはあるんです。出来ることが。それにここは人間だけじゃない。動物や自然とも共存してる。科学技術を否定することもなく、自然と共生してる。みんなが協力し合って存在してる。本当の地球みたいな所が好きなんです。人間がいなくても動物たちは生きていけますが、ここではもっと安心して、人間の愛に触れながら生きていける。人間が破壊者でなく、擁護者として動物や自然といられる、とても理想的な所なんです。」
ギルは話していて驚いた。今までそんなふうにここを考えたことはなかった。以前ルシファがいっていた人間の役割、その理想の形がここにあったのだ。
「だから動物たちも安心して、さっきは僕に『大丈夫』っていってくれたんです。」
慌てて口を閉じた。
しかし、老人は興味深そうに鋭い目でギルを見ていた。
ギルは慌てて話題を変えようとしたが、頭が混乱していた。
「ここの責任者に会いたい。案内してくれ。」
老人を受付に連れて行き、受付担当に引き渡すと、急いでその場を離れた。
「何なんだろう、変な人。」
とにかくもう係わらないように、急いで動物園の清掃に戻った。




