第2部 第58章
ギルはこの計画が途方もないことを初めて実感した。
ただでさえ途方もない計画、それなのに少ない人員。
「調べれば調べるほど地球はすごいよ。この世界に無意味なものなんて何もない。全てが必要で生かされてる。死体すらも地球を構成する重要な役割を果たしている。」
死体すらも・・・。
「鹿はかわいいから保護しよう。天敵であるオオカミは駆逐しようなんて人間のエゴが結果、鹿を飢え死にさせた。かわいいからとか好きだからなんてエゴは地球の生態系にはない。全てが必要とされてる。」
ルシファはカップのカモミールの香りを吸い込んだ。
「花はただ存在してるだけ。自分が花として精一杯生きているだけ。それだけで人にきれいだって感動を与えて蝶やミツバチに蜜を与えて、枯れれば土として再び花を育てていく。」
ギルはいつか自分が死んだら自分も土に還る。その土から大きな木が育って、沢山のおいしい実を付けて沢山の動物達がその実をおいしいって食べて欲しい。大きく広げた枝に小鳥がたくさん羽を休めながら歌ってくれたら素敵だと思った。
「途方もないよ。地球が育んできた世界を再現させるには、あまりにも人間は小さすぎる。」
ルシファはため息をついた。
「それをなんとか科学技術で乗り切るしかないんだよ。ちゃんとした生態系は新しい地球にまかせるとして、それまでの間だけ、船に乗った者達が生きていられればいいんだ。生き延びられるだけの空気、生き延びられるだけの水。」
キャプテンが静かにいった。
「そうだよ。後はルシフェルがやってくれる。今はそれまでの間乗り切れればいいんだ。」
ギルもルシファを慰めたかった。
しかし、「それまでの間」は一体何年、何十年、それ以上かかるかもしれない。
むき出しの汚染されたただの岩の大地に草がなびき、オオカミや他の動物達が走り回るにはどれだけの時間がかかるのだろう?
「ここにはヴィレッジが研究してきた生態系のデータがある。まだラッキーな方なんだけどね。どこまで科学が再現できるか・・・。」
「花は花として精一杯生きてるだけで充分なんでしょ? ルシファはルシファで精一杯がんばってる。それでいいじゃない。そんなに一人で全部背負いこんで悩まないでよ。」
両手で包んでいたカップからルシファは顔を上げてギルを見た。
わかったよ。というように疲れた顔で微笑んだ。




