第2部 第56章
もう、薄暗くなってきた。仕事も終わり、ルシファはまだ帰ってこないので、レストルームに行った。ここは全てセルフでいろいろな飲み物、奥には簡単な料理が作れるキッチンがあった。
ライブラリのクリスタルが沢山置かれていて、のんびりとそこでお茶を飲みながらライブラリを見たり、歓談したりする場所で、以前はいつでも誰かがいたが、今はひっそりとしている。それだけヴィレッジを去っていった人たちが多いことを物語っていた。
ギルはその静か過ぎる空間で、今まだヴィレッジに残ってる人たちがそれぞれどんな想いでいるのか考えた。
ジーンリッチを見捨てる形で進められる計画。それでもこのヴィレッジが好きだし、自分の研究を活かしたいと残った研究者もかなりいる。彼等はどんな想いで今、毎日を過ごしているのだろう?
突然、部屋に電気がついて我に帰った。
「ギルか。暗いままの方がいいかな?」
入ってきたのはキャプテンだった。
「もうこんなに暗くなっちゃったんですね。」
いろいろ考えていて時間がわからなかった。
「君は何か食べてる? ナチュラルは食事を取らないとね。力が出ないよ。」
キャプテンの顔は疲れていて、元々痩せ型の体が、さらにやつれたように見えた。
「キャプテン、キッシュはお好きですか? キャッシーから直伝のキッシュ作りますよ。」
ギルは急いで奥のキッチンに行った。
材料は何とかなりそうだった。手早く野菜を切って卵を混ぜて火にかけた。
焼いている間、お茶を入れる。順番もキャッシーに教わったとおりにしてる自分にちょっと驚いた。
お茶はキャッシーが送ってくれたカモミール。
少しでも困難に立ち向かう力をキャプテンにあげたかった。
湯気の上がる出来立てのキッシュとお茶を持っていくと、どこかの山が噴火したニュースが写った画像を見つめているキャプテンがいた。
「キャッシーが教えてくれたけど、作ったのは僕だから、味の保障はありませんが、食べてください。」
キャプテンは画面を消すと、目の前に置かれた湯気の上がるキッシュを見た。
「最近、忙しくて、湯気のあがっている出来立てなんて食べていなかった。うれしいね。」
ギルも自分の分を食べた。特別おいしくできてはいないが、充分な出来だった。
「キャッシーは元気かな?」
「この前会ったんですけど、元気でした。今の仕事をしてるのが1番自分らしくて楽しいって。」
「君はどう?」
「僕もすごく楽しいです。毎日動物たちと一緒にいられるなんて。ナチュラルの生活ができない僕にとってヴィレッジのこの環境はとてもありがたいです。」
キャプテンは疲れた顔で微笑んだ。
「まだここの価値があるのはうれしいよ。」
ギルは言葉を失った。ジーンリッチとナチュラルの分け隔てない世界。キャプテンの夢が壊れてしまった今、このヴィレッジの理念も壊れている。
「私はジーンリッチをいいように利用だけしているんだろうな。こうして食事を摂らないと生きられないナチュラルが船で長期間生きるには、ジーンリッチのために開発された錠剤を使うことになるだろう。その他、ジーンリッチとして一流の研究をしてきたもの達が、私の計画を手助けしてくれてる。彼らは自分が乗れない船のために必死に頑張ってくれている。」
どれだけキャプテンは悔しい思いをしているか。
かける言葉を必死に探した。
「僕たちがあんなことをいわなければ、もう少し計画は変わっていたんでしょうか?」
ギルはうつむいて小さな声でいった。例え本当のことだったとしても、希望を全て打ち砕いてはいけなかったのだろうか。
「いいや。私の考えも全く同じだった。だからこの計画をヴィレッジの計画としたんだ。誰かがいわなきゃいけなかった。むしろいってくれたことに感謝してるんだよ。」
優しくいった。その目じりの皺が深くなった微笑で、本心から感謝しているのがわかった。




