第2部 第51章
ラウンジに行ってみると、昨日の少年が隅の方の席に座っていた。
ギルは勇気を出して彼の隣に座った。
「昨日はごめん。いろいろあって、気が立ってたんだ。」
彼の反応にドキドキしながら様子を伺うと、彼は静かに座ったままだった。
「君はなんでそんなふうに笑っていられるんだよ。君のその明るさが僕をイラだたせるんだ。僕はとても笑えない。僕はこの先を考えると怖くてしょうがないんだよ。」
静かに彼はつぶやいた。ラウンジの画面には暴動が勃発したニュースが流れていた。
「暴動が起こるのだってわかるさ。みんなどうしていいかわからないんだ。この恐怖から逃れたくても、逃れられない。自分で自分をコントロールできないんだよ。」
画面では我を忘れて棒や看板を振り回す人たちが映し出された。建物のガラスは割れ、中にあったものも、無造作に表に投げ出されている。
「何の意味があるんだろう?」
画面を見ながらギルがつぶやいた。
「意味なんてないさ。恐怖にかられると意味のない行動をとるものさ。」
自分もラボで意味もなく暴れていたっけ。
「ルシファの話を知っているなら、僕がラボに送られたことも知ってるよね。」
ギルは伺うように上目遣いにみた。彼はうなずいた。
「僕はラボの中で恐怖にかられて、ちょうどあんな風に、暴れていた。7年間。役立たずどころか、死んで欲しいと願われてた。もう、何もできない自分に戻りたくないんだ。ここで何でもいい、自分の出来ることをしたいんだ。どうせ死ぬなら意味のない死に方はしたくない。あんな惨めな死に方したくない。」
「君は、あんな恐怖を知ってるの?」
火をつけた旗を振りまくる人がいる。何の意味があるのか、人形をみんなで踏みつけている人がいる。
「多分。同じ。恐怖にかられたら、どうすることもできない。体が動いちゃうから。」
「今は恐怖にかられないのかよ。」
「今、1番恐怖なのは、恐怖にかられて自分を失って暴れること。それがわかってるから。ここはラボじゃない。今の、恐怖はないこの世界に生きていたい。今、ここにない恐怖になんかとらわれないで、ラボじゃない、この世界の中に存在していたい。今、自分はこの世界にいるっていうことを感じるために、ここで何かをしたいんだ。」
彼はしばらく画面から目をそらして黙ったままだった。
「ごめん。僕は自分の弱さで君に喧嘩を売ったんだ。本当にごめん。君の強さを見てると、自分がすごく小さくて情けない存在に思えてどうしようもなかった。こんな小さな存在なんかじゃないって思えることをしなくちゃ、この恐怖から解放されないね。」
彼は立ち上がると、ギルの肩に手を乗せてラウンジを出て行った。




