第2部 第42章
「でも、正直、しんどいね。私はやっぱり父の船には乗っていることはできなかった。あのまま船に乗っていれば、なんて思ったけど、私にはやっぱり無理だって諦めがついたよ。」
無理だよ。ただの肉の塊にすら罪悪感を抱くほどの人が、耐えられるわけない。
「キャプテンはもっと辛いだろうね。ヴィレッジ全体の責任を負っている。それに彼の夢はジーンリッチとナチュラルの区別ない世界を創ることなのに、ジーンリッチを排除する計画をヴィレッジの方針にするんだから。」
「だからルシファが身代わりに悪魔になってあんな酷い現実を話したの?」
「キャプテンにはいわせたくなかった。」
キャプテンだけじゃない。あそこにいた人たち全部のやりきれない思い、見捨てられるジーンリッチの思い、全てを抱えて、あの時、ルシファは地獄にいたんだ。
「父が船の中で私に培養させていたバクテリア。全てがメッセージだったんだ。多分、私が船を降りることはわかっていた。地上で私が出来ること、地上で必要な知識を私に与えてたんだ。全て見透かされている。父は自分が見捨てる地上に、せめてもの置き土産をしたかったんだろう。私は何をすべきなんだろう? 私に役目があるとするなら、それが何なのか、わからない。」
ルシファは横になったまま、天井を見つめた。
「だからって、ルシファが自分を傷つけてまで、地上で何かをする必要はないと思うよ。」
ルシファは宙を見つめるのをやめてギルを見た。
「ルシファは自分でわかってないだろうけど、お父さんそっくりだ。ルシファはいつも僕に、自分の意志で人生を歩めっていう。これをしろ、あれをしろなんていわない。いつも自分で判断するだけの材料を与えてくれるだけ。ジーンリッチになることも強要しなかった。ナチュラルになれるかもしれない可能性を危険を冒して試してくれた。いつもいろんな可能性を与えてくれるだけで、実際の決定は僕自身に任せた。」
そうだよ。いつも僕を尊重してくれた。
「お父さんも、ルシファに何かになって欲しいなんて思ってない。ルシファにいろんな可能性を与えてくれただけ。それをどう判断しようとも、それはルシファの自由だ。お父さんは船を降りろとも、降りるなともいわなかったでしょ? ルシファはいつも僕にただ幸せになって欲しいっていう。お父さんの願いも、ただ幸せでいてくれることだけだと思うよ。」
ルシファは目を閉じた。
「そうだね。一気にいろいろありすぎて、焦り過ぎてる。今はあまり考えないほうがいいね。」
「ルシファは悪魔にも天使にもならないで。何かになる必要なんてないよ。ずっと僕のルシファでいてくれればいいんだよ。」
ルシファは笑って手を差し出した。
「会議室でのルシファ、怖かった。このままいつものルシファに戻らなかったらどうしようかって、すごく不安だったんだ。もうあんな思いしたくない。何かになんかなる必要ない。自分を傷つけてまでやるべきことなんか何もないんだ。ルシファはいつものルシファのままでいて。」
差し出された手を取って握り締めた。




