第1部 第13章
ベッドに横になりながら、今までのことを思い出してみた。
何が起きたのだろう? あのラボから出てここに何日くらいいるのだろう? たった数日で世界がまるで変わってしまった。
いや、本当はただの夢で何1つ変わってないのかもしれない。目が覚めたらまたあのラボ・・・。
そう思うと体が震えてきた。
ダメだ。もし夢だとしても覚めなければいいんだ。
もし、現実だったら?
自分の人生を自分で創っていくって・・・。どういうこと?
考えてもわからない。混乱してくるだけだった。
大きく息をして余計な考えをしないようにした。ただこの状況が壊れないことだけが祈りだった。
目が覚めると一人だった。
「ルシファ?」
いつも目が覚めるとルシファの明るい微笑があった。しかし、呼んでもいらえはない。
夢が覚めた?
慌ててベッドから出ると部屋の隅々まで見渡した。誰もいない。不安が襲ってきた。
「ルシファ?」
気を落ち着かせるように自分に言い聞かせるが、不安が鼓動を早くする。
机に置かれたキャッシーからの小鳥の木彫りが「おはよう」というように口を開けている。
「シャワー室かもしれないね。」
小鳥に微笑むとその子を握り締めて部屋を出た。
しかし、シャワー室にもいない。
手のひらの中の小鳥を見た。相変らずかわいい顔で口を開けている。
「キッチンだね。」
小鳥の頭を撫でた。
しかし、キッチンにもルシファの姿はなかった。
不安は恐怖に変わった。
そしてしばらく忘れていた記憶が甦った。
あれは父さんが出て行って間もなくの時。父さんが以前買ってくれた大切な犬のぬいぐるみがあった。
おもちゃはたったそれだけだったせいもあるが、とっても大切だった。生きてる犬のように毎日話しかけ、頭をなでていた。
そのぬいぐるみを取り上げて母は目の前でナイフを何度も何度も突き刺した。ギルには犬の悲鳴が聞こえた。手足はバラバラにされ、綿が引きずり出された。ギルには血しぶきがあがったように見えた。
「お前の大切なものなど全部傷つけてやる。私の全てを傷つけたんだ。当然でしょ?」
あの時の恐怖が襲ってきた。それは自分が切りつけられるより辛かった。自分さえいなければ、あの犬はこんな酷い目にあうことはなかったんだ。自分のせいで殺された。
「ルシファ! ルシファ!」
狂ったように叫んで走り出した。
目の前に扉があったので、勢いよく開けると、そこは光の世界だった。
あまりのまぶしさに光しか見えない。反射的に目を閉じる前に一瞬ルシファが見えた気がした。
光の中で立っているルシファ。
「光の天使」に戻って天に帰ってしまいそうだった。
「ルシファ、行かないで!」
目を閉じたまま走り寄ろうとすると何かにつまずいてそのまま地面に転がった。
「行かないで・・・。行かないで・・・・。」
恐怖で頭が混乱している。立ち上がろうにも混乱していて体が思うように動かない。
「大丈夫? 立てる?」
懐かしい声がした。
「薄暗いラボにずっといたから、外の光はまだきつすぎるだろ。目を閉じたままで歩ける?」
「ルシファ、大丈夫? どこも怪我してない?」
ほっとして体の力が抜けて思うように動けない。半分引きずられるように玄関まで行った。
「もう目を開けても大丈夫だ。」
玄関のドアが閉められると目を開けられるくらいの薄暗い世界だった。
ギルはため息をついた。
自分は光の世界にはいられない。そしてルシファは光の世界の人だ。
「僕・・・ラボに戻る。」
ギルのズボンの土を払っていた手が止まった。
「僕はルシファと一緒にいちゃいけないんだ。」
「私が理解できるように説明してくれるかい? その前に手のひらをすりむいてる。手当てをするから部屋に行こう。」




