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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第2部 第38章

「父の船に乗った人たちは数百年、眠りにつく準備をしている。もちろん、長めに設定はしてあるでしょうが、かなりの長期戦になることは明白。」


 とても機械的な声。


「それだけの長期間、箱舟に閉じ込められた生活を想定しなければならない。」


 ギルはその冷たい表情に全く違う人になってしまったようで不安になった。


「箱舟伝説では40日で洪水の水が引いて陸地ができたが、今回、それ以上になるか、それ以下になるかはわからない。もし陸地ができても、その土地にはすぐに下りられない。破壊された化学工場からの劇薬、そして地震や津波で破壊された原発からの放射能。汚染された空気、水、大地。」


 ただの地球の変動なら40日で新しい地球になれるのに、古い時代の負の遺産が何百年も残り続ける。


「その浄化をするにも、火山の噴煙で太陽光は遮断され、太陽での発電は期待できない。その他の発電は危険すぎて船に乗せられない。基本、電気を当てにした技術は使えない。」


 部屋がざわついた。


 電気が使えなければ、何も出来ない。


 部屋にいる人達の表情が一瞬にして凍りついた。


 船を創れば助かると期待したのに、そこから突き落とされたようなショックが部屋の中に広がった。


 ギルは怯えてルシファを見たが、ずっと無表情のまま。


 どうしてそんなことを今いうの? ただでさえみんな不安なのに、追い討ちをかけるようなことを。なぜ、そんな冷たい顔でいうの?


「電気が使えなければ、ジーンリッチは生きられない。」


 まるで止めを刺すように、あのナイフのような鋭い目でいった。


 みんなが息を飲むのがわかった。


「ジーンリッチが船で生きるには、殺菌・消毒、空調管理。いろいろなものが必要になってくる。それを乗せるだけのスペースも設備もそろえることは不可能だ。もし仮に何とかできたとしても、ジーンリッチ10人を救う空間や資源でナチュラルなら100人救える。ジーンリッチは船には乗れない。」


 部屋のざわつきが更に増した。


 ジーンリッチは船に乗れないって、それは見捨てるってこと?


 ギルはルシファを見た。


 ルシファは冷たい顔のまま更に続ける。


「もし救えるはずの100人のナチュラルを見殺しにして、10人のジーンリッチが救われても、彼らは地上に降りられない。地上は生物が生きられないほどの汚染。時間をかけて何とか浄化され、ナチュラルが下りられても、雑菌だらけの地上にジーンリッチが無事降り立てるようになるにはそれこそ何百年も先になる。」


 いくらナチュラルよりも寿命が長いとはいえ、自分の寿命が尽きる前に、地上に降りることはできないことになる。


「もし電気の確保ができても、地球の磁場が狂ってきてる今、太陽フレアなどの宇宙からの影響で電気の故障や異常は避けられない。電気が使えない環境ではジーンリッチの体は耐えられない。感染症で苦しむことになる。電気が使えない時間にもよるが、生存ですら危うい。私はジーンリッチが船に乗らないことを提案する。」


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