第2部 第36章
ノックをしたがいらえはない。
構わずキャプテンがドアを開けると、機械を前にしたままソファにもたれ宙をにらむルシファが座っていた。
「確認は取れたか?」
「ええ。」
「何を確認してたの?」
ギルはルシファに走り寄ったが、ルシファの顔は無表情だった。
「私があの船で培養していたもの。予想通りでしたよ。」
疲れたように額に手を当てた。
「見事ですよあの人は。私が船を下りること、初めからわかってた。わかっていて私に培養させたのは、この地上に残るものにとっても必要なバクテリアだったんですよ。」
遅くないのかもしれない。
投げ出し、後悔した船での生活。あれだけ嫌だった研究室。それが今、意味をなそうとしている。
しかし、ルシファの顔は無表情のままだった。
「洪水を生き残る箱舟にはマザーコンピュータを置きますよね。」
「ああ。」
あまりに冷たく機械的な声にキャプテンは疑問を感じた。
「そのコンピュータと父の船のコンピュータ『ルシフェル』の接続の許可を求めてください。父は生き残る手伝いは決してしないが、新しい地球の環境には手助けしてくれる。無事、地球の変動を生き残れれば、父の援助が受けられるでしょう。父としても地球の状況がわかる地上からの情報は欲しいはずだ。拒否はないと思う。」
まるで機械が話しているかのように淡々と話した。
「コンピュータ接続のパスワードは『祈り』。」
少しだけルシファに表情が出た。
ルシファは伝えたいんだ。しっかりと父の想いを受け取ったと。
ギルはあのガラスケースを思い出した。
「君たち親子に何があったんだ? あんなに君はお父さんを避けていたのに、今はしっかりと彼の意志をひきついでいる。」
驚きと安堵でキャプテンの顔が和らいだが、次のルシファの言葉で凍りついた。
「ええ、私はしっかり受け継ぎましたよ。計画を遂行するためのその非情さも。」
ギルもそのルシファの厳しい表情に息を飲んだ。
「天使の役割はルシフェルに任せた。私は悪魔に徹する。」




