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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第2部 第34章

 ノックの音がしてキャプテンが入ってきた。


 ルシファは慌てて画面を消した。


「遅くなってすまない。データはかなり見られたかい?」


「ええ。さすがに全部は無理ですけど。」


 にこやかに握手したが、キャプテンの顔は疲れていた。


「ギルも見たのかい?」


 ギルもキャプテンの手を握った。


「ルシファに少し教えてもらいました。」


 疲れきった顔で微笑むと、ゆっくりソファに座った。


「お父さんの宇宙船に乗ったのかい?」


 静かにキャプテンが聞いた。


「ええ。久しぶりに行ってきました。ギルも一緒に。少し船の中を観光しましたが、やっぱり、合わなくて戻ってきましたよ。」


 いつもと変わりないルシファの様子にキャプテンは少し安心したようだった。


「私も、かなり昔にアレックス・・・君のお父さんに船に乗る誘いを受けたよ。」


 思い出すように目を閉じた。


「でも私には夢があった。ジーンリッチとナチュラルが分け隔てなく生きていく世界。私はその夢を捨てられなかった。地球の変動がくることはわかっていたが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。」


 しばらく沈黙が続いた。


 キャプテンは後悔しているのだろうか?


「光と闇の天使が現われる。その時新しい世界が始り、古い世界が崩壊してゆく。」


 つぶやくようにキャプテンがいった。


「君たちに会った時、昔、シャーマンに言われたことを思い出したよ。とうとう崩壊が始まってしまったようだ。」


「これからどうしますか?」


 感情のない声でルシファがいった。


 うなだれていたキャプテンはテーブルに両肘をつき、指を組み合わせて、ルシファを見た。


「君に船であったこと、お父さんの計画について、ヴィレッジにいるこの件に係っている人たちに説明してもらいたい。」


「私がですか?」


 ルシファは冷たい声でいった。


「お父さんの計画だ。子供であり、その意志を引き継いだ君が話すべきだ。」


「私は、父の意志を引き継いだつもりはありませんが。」


「今さらだよ、ルシファ。もう誰も突きつけられた現実から目を背けることはできない。」


 いつも優しいキャプテンが、鋭い口調になった。


「今、地球が崩壊に向かっている、あと半年ともたいないと・・・。真実だとしても、人々はその真実を受け止められはしない。恐怖に駆られて暴動が起こりかねない。」


 ルシファから智恵の実を受け取った人間はそれを使いこなすことはできない。楽園を追われた人間のように、この事実を知れば、人々は希望を失う。今何の不安もない安全で快適だと思っているこの世界、まさに楽園のようなこの世界が終わるなどと、誰が受け入れられるだろう。


「いずれわかることだ。心の整理をつける時間は多いほうがいい。耐えられないものはいつ知っても耐えられない。それよりも真実を知った上で未来を切り開いて行こうとする者たちと何かをしていかなきゃならない。」


 ルシファは何もいわない。


「君が苦しいのはわかる。でも、君にしかできないんだよ。」


 ホーク・ウィスパラーの言葉を思い出した。


 これから君は重大な決断をしなくてはいけなくなる。それは自分だけでなく多くの人の命や人生に係る決断だ。


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