第2部 第31章
どれぐらいきれいな景色を見ながら祈っていたのだろう?
頭を乗せているルシファの膝の筋肉がこわばっているように感じた。
何か嫌なものを見たの? 囚われないで、ここに戻ってきて。
ルシファの意識を戻すように肘に手を触れた。
ルシファは驚いてギルを見た。その顔は悲しげな顔だった。
ルシファは頭の中にいっぱいになってるものを振り払うように首を振った。
「そうだね。私一人で見なくてもいい。」
独り言のように呟いた。
「見てごらん。」
ルシファが笑顔でいうのでギルは体を起こして画面を見た。
「きれい・・・。」
画面には万華鏡のように美しい幾何学模様のようなものが映っていた。
「これが私が培養していたバクテリアだ。」
「これ、生物なの? すごくきれい。」
ギルが興味深そうに見入るその映像。見飽きた、ただあの暗い研究室でずっと見続けてきた意味のないものが、ギルの「きれい」の一言で、自分もきれいだと思った。
過去は本当に塗り替えられるのだろう。
「このバクテリアは放射能を分解する。」
「放射能ってどうしてできるの?」
「原発からだ。本当は今私達が使っている電気を作ってくれるありがたいものなんだけどね、ちゃんと扱わないととんでもない化け物に変化する。それが放射能だ。」
ルシファはいつものやさしい笑顔でいろいろ教えてくれた。
「君はプロメテウスのお話は知ってる?」
ギルは首を振った。
「神話でね、昔、人間は火がなくて寒さに震えてた。かわいそうに思ったプロメテウスは人間に火を与えたんだけど、人間はその火を悪いことにも使ったんだ。戦争とかね。怒った神はプロメテウスを罰したんだ。」
「どうしてプロメテウスが罰せられるの? 悪いのは人間じゃない。ルシファがあげた智恵の実だって、使い方間違ってるのは人間だ。」
困ったようなルシファの顔を見て、話題を変えた。
「他にはどんなデータが入っていたの?」
ルシファは画面から目を離してソファにもたれた。
「面白くないものばかりだよ。これからの地球の変動によってどんな被害が出るか、地球中の土地で起こるだろう災害のデータだ。地震、それによる津波、火山の噴火。土地の陥没。更にはそれによって起こされる原発の破壊による放射能汚染、化学工場からの劇薬の流出。それがどんな規模でどんな影響を及ぼすかのデータ。」
じっと画面を見つめていてこわばった体を動かした。
「あの宇宙船に乗った人たちは何百年も、そこまで破壊された地球に戻るまで、成長を止めてガラスケースの中で眠り続ける。ルシフェルがもう地球に下りられる環境になったと判断するまでね。」
何百年も・・・。
「でも、その後の地球再生の計画もあったよ。文字だけだから見せてあげられないけど・・・。私がイメージしたら、君は見られるかい?」
ルシファがギルの手をとった。




