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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第2部 第28章

何となく朝の光を感じて目を覚ましたが、頭がはっきりしないまままどろんでいた。


現実と夢の中を行ったりきたり。


徐々に意識がはっきりしてくると、ルシファの手をつかんでいる自分に気づいた。


その手に自分の手を重ねてみる。


----僕より細くて長い指をしてる。----


 この細い手で、今まで僕を引き上げてくれて、守ってくれていたんだ。


 創られたグロテスクな体というけれど、この腕のどこがあのガラスケースのもの達と同じだというのだろう。ルシファのどこが人間じゃないというのだろう? もし人間でないなら天使にしかならないだろうに。


 人間らしくなればなるほど、失敗作だと思われた。決して面と向かっていわれたわけではないのだろうが、ルシファは感じていただろう。


 ルシファの辛さを思うと苦しくなってその手を抱きしめた。


「何をしているの?」


 まだ意識がはっきりっしていないような声でルシファがいった。


「きれいな手だなと思って。・・・きれいっていわれるの嫌?」


 ルシファの手を見つめた。


「きっと罪悪感を感じるんだろうね。私はあの兄弟達と何ら変わりない物体なのに、どうして自分だけ魂が入って、あのガラスケースから出られたのか。彼らはずっとあの中なのに。」


 ギルは力の抜けたルシファの手に自分の手のひらを合わせたり、指をからませたりしていた。


「私はあの中のガラスケースの1つに過ぎない。あの中に入っているとき、私には彼らしかいなかった。ただの肉の塊であっても、私の世界は彼らだけだった。同じ兄弟なんだよ。」


 背中からルシファの呟きが聞こえる。


「ルシファは本当に優しすぎるよ。」


 魂の宿っていない肉の塊に罪悪感を感じるなんて。


「あの肉に魂が宿ったらそれこそ苦しむよ。だから魂が宿らなくて、物体のままなんだ。外に出られなくても、その方が幸せなんだよ。だから魂が宿らなかったんだ。」


 ルシファの手を表にしたり裏にしたりして見つめた。今、ルシファの顔を見たら、おそらく今にも壊れそうな悲しい顔をしているのだろう。


背中を向けたまま話した。


「ルシファはきっとここでやりたいことがあったんだ。それができるこの体に入ったんだよ。」


 ふと炎のような翼のルシファが浮かんだ。


「父さんが、ルシファにスピリットの伝言をしてる時、父さんが何を見てるか感じてみたんだ。父さんが同じものを見ていたかどうかわからないけど、翼の生えた天使のルシファがいたんだ。その天使は自ら翼をもぎ取ってた。とても痛そうだった。」


 痛みに歪んだ顔が思い出される。


「物語のルシファは天使に落とされて地獄に落ちたけど、本当は自ら地上に落ちてきたんだ。自分で翼を折って苦しんでも、この地上の為に。ルシファは船から逃げたんじゃない。苦しむのわかってて、地上に降りてきてくれたんだ。」


 ギルはもてあそんでいたルシファの手を握り締めた。


「誰もそんな強い天使を傷つけることなんてできないよ。ルシファが自分で自分を責めて傷つけてるだけだ。」


 今まで力の抜けていたルシファの手に力が入り、ギルの手を握り返した。


「君は間違っている。」


 ギルは思わず振り向いた。


「ここに1人、私をボコボコにした人がいる。」


 意地悪そうに微笑むルシファの顔があった。


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