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石の記憶  作者: 弥生 飛鳥
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第2部 第26章

家にもどると、ルシファは疲れたようにソファにもたれた。何もいわない。


「お茶をいれるね。」


 ギルは部屋を出た。


 なんていってあげたらいいのかまるでわからない。とにかく落ち着いて欲しくてラベンダーのお茶にした。


カップを持っていくとソファにルシファがいなかった。慌てて探すと、ギルの部屋で机を叩いていた。周りには本棚から出した本が落ちている。


「気付けたはずなんだ。父は私に気付いて欲しかったんだ。」


 ギルが読んだ本。洪水の話、人間の宇宙人による遺伝子改造と文明。大陸移動により海に沈んだ文明。


「サインはどこにでもあったんだ。それなのに私は・・・。」


 何度も机を叩いた。


「父の研究をもう少し手伝っていれば、わかったはずだ。自分が何のために細胞を培養しているのか、父が何を目的としているのか知ろうとすれば・・・。地球がこうなるとあの時にわかっていれば、もっと救えたかもしれない。DNAや細胞でなく体ごと救うことだってできたかもしれない。それなのに、私は逃げたんだ・・・。」


 自分に対する激しい怒り、その怒りが矢のようにギルに突き刺さってくる。


 いつも自分のことを安心させるように優しいルシファが激しい怒りを自分自身にぶつけている。こんな激しさをずっと押しとどめていたのかと思うと、ギルはいたたまれなかった。


「心のどこかでわかってたのかもしれない。だから私は逃げたんだ・・・。卑怯者だ。」


 ギルは耐えかねて口をはさんだ。


「ルシファは後悔しているの? お父さんの船を降りたことを後悔しているの?」


「ああ。自分の愚かさに嫌気がさしてる。」


 吐き捨てるようにいった。


「そうだよね。あのまま船に乗っていたら、きっとルシファはもっと沢山のものを救えたんだよね。お父さんは培養すればいいDNAや細胞しか船に乗せなかったけど、ルシファがいたらもっと沢山の人間や動物たちを、そのままの姿で助けられたんだよね。そんなすごいことができたんだよね。」


 ルシファは顔を上げた。


「でもルシファが船を降りてなかったら、僕はルシファに会えなかった。僕はずっとあのラボで苦しんでたんだ。僕1人救うことなんて、船に残ってできたことに比べればとっても小さくて、価値のないものだよね!」


 自分は何をさけんでいるのだろう? ルシファを慰めたいと思っているのに、自分の思いだけをぶちまけて、ルシファを逆に追い詰めてるだけじゃないか。


 でも止められない。ギルは泣き叫んだ。


「望まれずに生まれた子供としてルシファの痛みが少しでもわかってあげられるなら、僕はあの苦しい過去に感謝できる。ルシファはいったよね。過去は変えられなくても、塗り替えることはできるって。僕のあの過去に意味を持たせられると思ったのに!」


 もう言葉が続かずに泣くことしかできなかった。


「ごめん。ギル。船に乗ったら、意識が昔に戻ってしまったみたいだ。今が見えなくなっていた。」


 ルシファはいつもの穏やかな声でいった。


「君がラボに戻されたときのような心境だったんだ。本当にごめん。」


 泣きじゃくるギルの肩に手をおいた。


「私の我侭で君の生きる権利を奪ってしまった自分がとっても許せなかったんだ。そしたら自分の何もかもが許せなくなって。」


「どうしてそうやって自分を責めるの? 僕にいったじゃない。自分だけが我慢すればそれで済むと思うなって。」


 ルシファは微笑もうとしたが、なかなか作れないでいた。


「なんで僕が泣いてるの? 本当に泣きたいのはルシファでしょ? 泣いて全部吐き出しちゃえっていったのもルシファじゃないか。」


 しゃくりあげながら叫んだ。


 ルシファはもう笑顔を作ろうとする無駄なことをやめた。力が抜けて、立っていられず、そのまま、倒れ掛かるようにギルを抱きしめた。


「ありがとう。」


 ルシファの体が震えている。


 ギルは今までのやりきれない怒りが引いていくのを感じた。


「君に会えてよかった。」


 涙があふれてくる。声を上げて泣くのとは違う。ただただ涙があふれてくる。怒りも悲しみも感じない。感じているのは安らぎなのだろうか? 心が温かいのに、涙だけがとめどなくあふれている。


----僕はルシファにとって、ちゃんと意味があるの?----


 一人で耐えないでいいってわかって欲しかった。

 


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