第2部 第25章
「おいで。私の右腕となった助手を見せてあげよう。」
父は立ち上がると部屋を出て行った。
うなだれるルシファの腕にギルは触れた。その手に自分の手を重ねて、歩き出した。
「これが私の右腕ルシフェルだ。」
開かれた扉の向こうには、まるでヘビの塊のような生物とも機械ともつかないグロテクスな物体があった。その物体から伸びるヘビのような管はいろいろな機械に接続されていた。
「この子はお前のように何もない宇宙空間を寂しがることはない。地震で潰される動物や人間、洪水に飲み込まれる木々に心を痛めることはない。計画遂行の為にただもくもくとデータを集積し分析し判断する。地球の放射線濃度を測定し、必要な処置を取る。地上で腐っていく人間の死体を速やかに分解するバクテリアを地球に提供する。」
父は誇らしげに振り向いた。
「お前のような人間にはとてもできない重大な仕事を任せられる。これが私の成功作のルシフェルだ。」
父はルシファの肩に両手を乗せた。
「新しく生まれ変わった地球に下りたとき、私はお前の残した物を探して彷徨うだろう。
今からのわずかな時間でお前が何をして、何を残すのか。それを見つけるのが今から楽しみだよ。どんなわずかなことでもいい、見つけた時、私はとても誇りに思うだろう。」
肩に置かれた手は力強かった。
「ガイガーに私の研究の全てのデータを送っておくよ。」
肩に置かれた手が離され、背を向けた。
「人間は、まだ宿題に手をつけてすらいない状態だ。地球という世界の中で、人間が本当に担うべき役割、その役割を果たすどころか、役割が何なのかすら見つけていない。勝手気ままに自分達の快適さだけを追い求め、地球を痛めつけることしかしてきていない。このまま、人類をただの愚かな存在として滅亡させるわけにはいかないんだよ。」
振り向いた父の顔は少し悲しそうだった。
「行くがいい。お前の世界へ。残されたわずかな時間、自分らしく生ききるがいい。」
ルシファはゆっくりと顔を上げて父を見た。
「今まであなたを憎んだこともなかったが、心から感謝したこともなかった。今、初めて心から感謝します。」
頭を下げた。
憎むほど何かを期待したことはなかった。父とは名ばかり、ただ自分を創った人であり、しかも自分は失敗作。何の特別な感情を抱くことはなかった。赤の他人よりも別な世界の人。人間と人造人間。何の期待も、感情も持てるはずがなかった。
ギルは父を見上げた。
「僕のことは全て知ってますよね? 僕の本当のお父さんは僕になにもしてやれないと後悔してました。でも、祈り続けるといってくれました。」
ギルは叫ぶようにいった。
このまま、愛しているからこそ見捨てられ、そのまま終わって欲しくなかった。
「だから、ルシファの為に祈ってください!」
父は微笑んだ。初めて見る表情。他人に対してさえ向けたことのない優しい顔。
「ああ。もちろんだ。私が生きている限り。ずっと、ずっと祈っている。私が人間の父として生きられなかった後悔と共に、一生祈り続ける。」




