第2部 第24章
「どうしてあの時いってくれなかったんですか!? あの時いってくれていれば・・・。」
必死にこらえていたものがあふれ出すように叫んだ。
地球がこうなること。その上で地球に対してしてあげられること。自分がそれに携わっていたのに、何も知らずに逃げ出した。どうしていってくれなかったのか。あの時いってくれていたのなら・・・。
「いえばお前はこの船に残っただろう。」
ルシファのやりきれない怒りを前に、アレックスは冷静にいった。
「私の計画はとても非情なものだ。お前は人間の心を押し殺して、地球を再生する計画の為に切り捨てるべきものは非情に切り捨てる機械になろうとしただろう。見捨てられる人間。ここには地球上の全ての生物を乗せるだけの設備はない。乗せられるのは後で培養すれば生物となる細胞だけだ。今、生きているものは救えない。お前はそんな自分を責めただろう。地球に起こる災害を何も出来ずに見ている自分を責めただろう。そんな人間の心を持った助手などいらない。お前は人間の心を持ってしまったただの失敗作だ。」
ルシファはまるで彫刻のように動かなかった。テーブルに両手を付き、身を乗り出し、父をじっと見つめた。
「私は人間を創ろうと思ったわけじゃない。非情に計画をこなす優秀な助手が欲しかった。私の地球再生の計画に人間の心は邪魔でしかない。計画を成功させるためには不必要なものは全て切り捨てるしかない。何かを守ろうと思ったら、沢山の犠牲が必要になる。守るためには他のものに対して冷酷にならなくてはいけない。情に流されていては守りたいものを守ることはできない。だからお前を切り捨てた。お前には荷が重過ぎる。地球再生のメシアになるよりも、人間として生きたほうがお前のためだと思った。だからロバートにお前を任せた。」
ルシファは動かない。その瞬きすらも忘れた目から涙があふれていた。幾筋も、幾筋も。血の気の引いた白い顔を流れ落ちた。
父が船を降りることを許可したのは、厄介払いができるかだと思っていた。これで失敗作の面倒などみる必要がなくなると、清々しているものだと思っていた。
父はルシファを愛していた。愛していたからこそ、自分の元において苦しめたくはなかった。誰よりもルシファを「人間」として見ていた。
「どうしてその体に人間の魂が宿ってしまったのだろうね。お前は私の創った最大の失敗作。私の犯した最大の罪だ。」
ルシファの首の力が抜けてうなだれた。幾粒もの涙がテーブルに落ちた。
ルシファは動けなかった。一体、自分は何をしてきたのだろう?
何から逃げていたのだろう?
自分が創り上げていた世界が音をたてて崩れ去ったようだった。
自分が創ったフィルターが消えた世界は、あまりにも違った世界だった。
自分が思っていた世界と、現実の世界はあまりにも違うもの。
同じ世界であるのに、ルシファの「グロテスクな肉の塊である失敗作」というフィルターを通してみていた世界はあまりにも歪んでいた。
どうして、そんなふうに歪んだ見方しか出来なかったのか。
ただ打ちのめされて、うなだれるしかなかった。




