第2部 第15章
ピティを出るとギルがルシファの背に手を当てた。
「痛くない?」
「どうして?」
ギルは自分の見えたものをいわなかった。
「ありがと、ルシファ。僕、お父さんに会えるなんて1度も想像したこともなかった。母さんがすっと愛されてたって知って、本当によかった。」
ルシファにはどうしてあんな母の幸せを喜ぶのかわからなかった。
「すごいよ。ルシファの魔法は本当にすごい。」
車に着くと2人はギルの明るい顔にほっとした。
「随分楽しい話をしたようね。」
キャッシーがわざわざ車から降りて後部席のドアを開けてくれた。
「うん。僕のパワーアニマルはオオカミなんだって。」
すべるように乗り込むと運転席のシートに抱きついてアランにいった。
「どうりでアランに好かれるわけだよ。」
ゆっくりとシートに座りながらルシファがいった。
「マジかよ。俺はハイキングのあのすばっしこさはシカだと思ってたのに。」
アランは力いっぱいエンジンをかけた。
「今から運転するの? 大丈夫?」
真っ暗な夜道を長距離運転するなんて。
「なぜか元気なんだよ。聖地で充電できたのかな。それに俺の愛するオオカミたちに早く会いたいからな。」
「どうやら私だけじゃ駄目みたいよ。」
キャッシーは呆れたようにいった。
車が走り出すと、程なくギルは眠ってしまった。
ギルが寝ているのを確認してアランは話し出した。
「最悪の内容だったな。」
「ああ。恐れていた予想の中で最悪の内容だ。」
「このまま異常気象も地震も収まるどころか酷くなっていくのね。」
「シャーマンに言われても、知らないままでも、結果は同じだ。心構えが事前にできたことを喜ぶしかないんだろうな。」
「心構えっていわれても・・・。」
キャッシーは静かにいった。
「今は何も考えられないよ。心の整理に時間が必要だ。キャプテンやヴィレッジの人たちも今後のことをいろいろ考えてる。じっくり時間をかけて考えよう。」
今はあまりにも頭が混乱しすぎている。
「最悪の話を聞かされて混乱してるけど、君たちには感謝しなきゃいけないんだろうね。」
ルシファがいった。
「君たちが無理矢理シャーマンの所に連れて行ってくれなかったら、ギルはお父さんに会えなかった。」
ルシファの膝に頭を乗せて眠るギルの前髪をすいた。
「あの様子だと素敵な出会いになったようだな。」
「ああ。会えてよかったよ。」
本当によかったようにルシファは微笑んだ。
「まったく、君の判断基準はよくわからん。」
アランがあきれた。
「いいじゃない。今回の旅の最高の収穫よ。」
「しかし、あれだけの力のあるシャーマンの血を引いてるとはね。あの存在感の迫力はとんでもないよ。野生のオオカミと喧嘩したってあんなに緊張しないぜ。」
「ナチュラルとして生きられるなら、お父さんの所で暮らしたのかしら?」
もし、ナチュラルとして生きられたなら? もうそれは叶わないことだ。
「無理だね。」
アランがきっぱりいった。
「ルシファが離すわけないだろ?」
「それもそうね。」
キャッシーはギルを起こさないように声を殺して笑った。




