第2部 第13章
ピティに入ると焚き火の奥に片手で顔を覆い、膝に置かれた片手は握り締め、震えている男が座っていた。さっきまでの人間ばれなした威厳は欠片もなかった。
ギルはまた自分が間違ったことをしてしまったようで、何もいえずにルシファの隣に座った。
「君にはとても許してもらえない。・・・私は何も知らなかった。」
震える声で呟くと何度も頭を降った。
「私は何も知らずに、ずっとここでメアリーを待っていた・・・。」
ギルは膝を抱えて震える男を見つめていた。
男は大きく息を吐くと顔を覆っていた手を下ろし、ギルを見た。その目からは鷹のような鋭さは消えていたが、しっかりとした輝きがあった。
「君のお母さんは、とても自然を愛していた。自然も同じように彼女を受け入れ、自然を愛するように私のことも愛してくれた。だから、私は、また彼女が戻ってくるのを、ずっとここで待っている。」
再び首を振った。
「それなのに・・・。そんなに彼女は傷ついて・・・。そして君を苦しませた・・・。私はとても許されない・・・。」
ギルはゆっくり立ち上がると父に近づいた。
「ごめんなさい。何も知らない方がよかったですよね。僕の我侭であなたを苦しませてしまった。」
父の前で立ち止まった。
「でも、『父さん』として話してみたかった。母さんがとても愛されてたって聞けて、よかった。それだけで僕は充分です。」
ギルが父にゆっくり両手を伸ばした。
「僕さえいなければ、誰も苦しまない。だから、母さんから僕の記憶を消したんだ。父さんの記憶からも僕を消してあげる。」
ルシファが止めに入るより早く、優しくギルの差し出された手を払った。
「私はこの罪を背負って生きていく。そんなことで君やメアリーが救われるとは思わない。それでも私はこの罪を大切に持ち続ける。」
「どうして? どうしてそんな意味のない苦しみを自ら背負うの?」
「苦しみには元より意味がない。君になにもしてあげられない、不甲斐ない父親だが、君は私の息子として私の中に存在し続ける。私は祈るよ。君のためにずっと祈るよ。」
父は立ち上がると、ギルを抱きしめた。
僕は存在して、いいの?
ギルはしっかりと父を抱きしめた。激しい何かの力が体中を駆け巡っているかのように感覚がなくなった。宙を浮いているような感じだった。
ゆっくりと父が体を離した。




