1話 目覚めたら推しを抱いていた
ずきっ……。
唐突な頭の痛みに、クラリスは顔をしかめた。
思わず手でこめかみを押さえる。
「……?」
体は床に横たわっているらしい。
頬に触れる石の感触が冷たい。
あちこちが鈍く痛む。
クラリスはゆっくりと瞼を開いた。
薄暗い。
石造りの天井。
窓からうっすらと光が差し込む。
隅には、いくつもの蜘蛛の巣。
「あれ……ここ……?」
掠れた声が、思いのほか小さく響く。
そのとき。
左腕に、妙な重みがあることに気づいた。
「なに……おもい……」
体ごと、ごろりと左へ向く。
そこにいたのは――
クラリスの腕を枕に、すやすやと眠るシュヴァンだった。
その顔の近さに、クラリスはごくりと唾を飲み込む。
長いまつ毛、穏やかな呼吸、さらりと流れる髪。
瞬きをする。
もう一度する。
目をこする。
頭を振る。
それでも、やはりそこにはシュヴァンがいる。
「……」
クラリスは天井を仰ぐ。
「……わたし、シュヴァン王子抱いた?」
ようやく出た声は、ほんの少し震えていた。
ずきりと頭が痛む。
その痛みに混じって――
『……医学校、ですか。……お気をつけを』
カレルの声が、やけに鮮明に蘇る。
(なんで、あんな言い方……)
途切れる。
次に浮かぶのは、フィーリアの笑み。
『……少し、お話がしてみたいわね』
ぞくり、と背筋が粟立つ。
(あれ、冗談じゃなかった……?)
――そして。
『やあ。おはよう』
眩しいほどの笑顔。
(あ)
そこから先が、思い出せない。
「ん……」
耳元で、吐息に混じる声。
クラリスはびくりと肩を揺らし、そろそろと視線を動かす。
声の主――シュヴァンは、わずかに眉を寄せただけで、また静かに眠りに落ちた。
(寝顔すらもメロい。寝顔なんてみてしまって、なんて幸運なんだろ……)
クラリスは眺めながらため息をつく。
(私この人抱いたの?いや抱いてない。……違うそこじゃない)
クラリスが首を横に振った、その時だった。
ふっと、腕の重みが消える。
「えっ……!?」
影が落ちる。
次の瞬間、左頬のすぐ横に、何かが突き立った。
クラリスは息を呑む。
頬の横の冷たい温度に、身体が動かせない。
視線だけなんとかそろりと動かすと、そこには小さなナイフ。
そして、それを握る右手。
覆いかぶさるシュヴァンの眼差しは突き刺すように鋭く、吐息がクラリスの頬に触れる。
「……クラリス嬢?」
その声は低く、普段の穏やかさを消していた。




