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33話 三度きりの奇跡




重症と思われる患者は三人。


ミュラーが群衆のもとへ、クラリスたちはそれぞれが患者の元へとかけよった。


クラリスはしゃがみこむ若い女性の横に、おなじくしゃがむ。


「話せる?何か言える?」


女性は首を横に振り、両手を首にあてていた。


(チョークサイン!あの細粒が気道を塞いだのか、アレルギー反応で粘膜が腫れているのか……)


顕現の魔法陣を当てる。


魔法陣には、紫の粒子。


(腫れた粘膜が気道を塞いでいるなら、救命は難しい……なんせ、炎症を抑えられる薬なんて、ないんだから……!)


消去の魔法陣をあてる。


(お願い、効いて……)


魔法陣の光が女性をつつみこみ……


一秒。


二秒。


「……はっ」


女性が、空気を大きく吸い込む。


「はぁっ……はぁっ……!」


胸が上下し、女性の目に涙が浮かぶ。

女性がクラリスの白衣を掴む。

その手は、震えていた。


クラリスは女性の背をなでながらも、大きく息を吐いた。


「……よかった……!」


声が震えていることに気づき、慌てて首を振る。


見回すと、ルスカもヴィルも顔を上げていた。

その横で、患者が確かに呼吸をしている。


(これなら……!)


三人は視線を交わす。

言葉はない。

ただ、強く頷いた。


(いける……!!)


クラリスは雨に濡れた石畳を蹴り、広場へ走った。








広場に集まった人々は、ミュラーを囲むように立ち、診察を見守るように順番を待っていた。


「……暴動になったかと思った」


整列を促すハンナに、クラリスが尋ねると、ハンナはくすりと笑う。


「子供五人育て上げたこのわたしと、元軍医ミュラー先生の力だね。さあ、先生たちも頼むよ!」


(……なにがあったんだろ……)


首を傾げつつも、ハンナにばしと背を叩かれたクラリスもまた、診察に取り掛かった。





(魔法陣、すごい……!)


笑顔で立ち去る患者に手を振りながら、クラリスは汗を拭った。


(魔力消費もないし、これなら何人でも診れる……!)


クラリスが次の患者を手招きした時だった。


紙の上の魔法陣が一瞬大きく光を放ち、まるで燃えるように端から消えていく。


「あ、あれ……?」


みるみるうちに、白紙に戻ってしまった紙を、クラリスは呆然と見つめた。


「お前もか……!」


背後からかかる声に、クラリスは顔を上げた。


「ミュラー先生!あれ?診察は……?」


雨に濡れた前髪をぬぐいながら、ミュラーはふう、と息を吐いた。


「俺もお前と同じだ!紙に戻っちまった。アニが言うには、発動はせいぜい三回ほどだと……!!くそっ!!」


「……っ!!」


頭を巡らせる。


(確かに、アニがそんなことを言ってた……!)


背筋を冷たい何かが滑っていく。


「いまアニが、描き写してくれてるが……なんせ一人だからな……!!」


広場には、まだ何十人も、何百人も残っている。

重なる咳の音。

子供の泣き声。


その中でも、ミュラーの声が、雑音の中にやけにはっきりと響いた。

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