31話 押し寄せる足音
空間を切り裂くような雷鳴と、それに重なる悲鳴のような咆哮。
稲妻は何度も空を裂き、診療所の壁がびり、と震えた。
「わ、な、なに……!?」
ヴィルとクラリスは思わず肩をすくめ、窓へ駆け寄る。
いつの間にか激しい雨が地面を叩き、遠くで雷が何本も落ちていた。
その度にガタガタと建物が揺れる。
「この世の終わりきた……?」
ミュラーがアニを抱き寄せると、
「そんなわけないでしょ」
アニは嫌そうに抵抗し、ため息をついた。
「……兄上だろう」
ルスカが、窓の外を見据えたまま呟いた。
「天候を操る力をお持ちだ」
一瞬、胸の奥にざわりとしたものが広がる。
(……兄上は、皆の先頭に立って戦う人だ)
再び、雷鳴。
ヴィルが小さく悲鳴を上げ、ミュラーの腕の中でアニが抗議の声を漏らした、その時だった。
ぱん、と乾いた音が診療所に響いた。
「いたっ」
クラリスは自分の頬に手を当てて顔を顰めていた。
「何やってんのお前……」
ミュラーはごくりと唾を飲む。
が、クラリスは気にも止めず大きく息を吸う。
「願掛けです!!むこうもがんばってる!こっちも、頑張りましょう!」
一人ひとりの顔を、順に見回す。
ルスカは何度か瞬きをしてから、ふっと笑った。
「……そうだな。俺たちは医師だ!やるぞ!」
皆で顔を見合わせ、頷いたまさにその刹那だった。
ゴホッゴホ……
診療室の方から咳の音。
ハンナが、はっと顔を上げると、駆けて行った。
「さあ、この魔法陣の出番だね」
クラリスたちは、アニが描いたばかりの魔法陣を手に、患者の男性の前に立った。
男性は、言葉を発するたびに咳き込み、苦しそうに眉を寄せている。
「まずは……顕現」
魔法陣をかざすと、淡い発光とともに、あの紫色の粒子が浮かび上がった。
クラリスとルスカは視線を交わし、無言で頷く。
もう一枚の魔法陣を、男性へ。
「それから……消去」
光が、男性の身体を包み込んだ。
(お願い……うまく、いって……!)
高鳴る鼓動。
開いた唇が、かすかに震える。
「……どうですか?」
問いかけに、男性は恐る恐る口を開く。
「……本当に、こんなもんで治るのか……いや……」
一拍。
「……苦しく、ない」
ふっと、力の抜けた笑みが浮かぶ。
「よし……!!」
思わずガッツポーズを取るクラリス。
アニと視線が合い、二人同時に頷いた。
「いける……!!これなら…!!」
その瞬間だった。
バァン!!!
診療所の扉が、勢いよく開く。
「せ、先生!!助けてくれ!!苦しくて、仕方ないんだ!!」
切羽詰まった男の叫びに、全員が顔を上げる。
入口に立つ、一人の男性。
「せ、先生……!」
ハンナが、ゆっくりと腕を上げ、震える指で外を指した。
金切り声が、雷鳴と重なる。
その男の背後には――
何人も。
何十人も。
数えきれないほどの人々が、診療所へと押し寄せていた。




