『ホラー映画を観ましょう』
とある6月の休日の夕食後。
俺は優奈と一緒にリビングで、放送されている動物バラエティの猫特集を観ている。登場する猫はとても可愛くて、
「あぁ、猫ちゃん可愛いです……!」
と、うっとりとした笑顔でテレビ画面を見つめる優奈もとても可愛い。優奈は猫が大好きだからなぁ。今のように、夕食後に猫が出てくるバラエティ番組やドキュメンタリー番組を観ることはたまにある。
動物バラエティを観ていると、CMの時間になった。動物バラエティなので動物絡みの商品のCMが多いけど、
「おっ、この映画……この番組の後に放送するんだ」
動物バラエティの後に放送されるホラー映画の宣伝CMも流れる。
「この映画、去年話題になってたやつだ」
「ヒットしていると話題になっていましたね」
「そうだな。タイトルは知っていたけど、まだ観たことはないから観てみたいな。優奈はホラー映画ってどう?」
「心霊系が怖いので、ホラー映画は映画館で観ることはありませんが、今日みたいにテレビ放送されると観ることはありますね。怖いもの見たさもありますが。ただ、一人で観るのは怖いので、家族や友達と一緒に観ます」
「そうなんだ」
心霊系は怖くても、誰かと一緒ならコンテンツに触れられるっていう人っているよな。俺の姉の真央姉さんがそういう人だ。
「和真君ってホラー映画はどうですか?」
「心霊系は平気だから、ホラー映画を観ることもあるよ。ただ、映画館で観ることはあまりなくて、テレビ放送とかDVDレンタルとかサブスクで観ることが多いかな」
「そうなんですね。平気なのは凄いです。……和真君と一緒なら観られそうです」
「そうか。じゃあ、バラエティが終わったら、続けて映画を観るか」
「はいっ」
優奈と一緒に、話題になったホラー映画を楽しもう。
それから20分ほど動物バラエティが放送され、その後にホラー映画の放送が始まる。放送時間は2時間だ。
このホラー映画の舞台は現代の日本で、主人公は女子高生。主人公は学校でもバイト先でも友人がおり、家族との仲も良くて毎日の生活は順調そのもの。
しかし、ある日から自分の周りで不可解なことが起こり始め、次第に家族や友人達の様子も変わっていく。やがて、主人公を恐怖に陥れる出来事が次々と降りかかってくる……といった内容だ。
現代日本が舞台だし、序盤に起こる不可解な出来事は実際にもありそうなことだし、周囲の人間の様子が変わっていく様も怖さを感じる。ホラー映画らしい王道の怖いシーンもあるし、ヒットしたのも納得だ。驚いて、何度か「おっ」と声が出るときも。
なお、心霊系は怖いと言っていた優奈は、怖いシーンの大半で、
「きゃあっ!」
と悲鳴を上げていた。不可解なことが起こり始めたシーンから、優奈は俺の腕を抱きしめ続けていて。優奈には悪いけど、その反応をちょっと可愛く思ってしまった。
ただ、何度も悲鳴を上げているので、CMに入ったときに「観るのを止めてもかまわない」と言った。すると、
「そう言ってくれてありがとうございます。結構怖いですが、和真君と一緒なので、最後まで観られると思います。それに、結末も観たいですし」
と優奈が言ったので、最後まで観ることに。
恐怖シーンが次々と出てくる展開は怖さや驚きもあるけど面白いので、放送が終わるまであっという間だった。
「あぁ、面白かった。話題になってヒットしたのも納得だ」
「とても怖かったですもんね……」
優奈は元気のない声でそう言った。
優奈の方を見ると……優奈の顔色が悪くなっている。目がちょっと潤んでいて。本当に怖かったのだと分かる。放送中は何度も悲鳴を上げていたからな。あと、映画が終わったにも関わらず、今も俺の腕をしっかりと抱きしめているし。
「かなり怖かったですから、和真君が一緒で良かったです」
「不可解なことが起き始めたぐらいから、俺の腕を抱きしめていたもんな」
「ええ。あと、地上波での放送なので、何度かCMがあったのが良かったです。CMのおかげで気が休まりましたし」
「CMのときはほっとしていたよな」
だいたい2分ほどだけど、CMで映画が中断される。優奈はホラー映画を映画館では観ず、地上波の放送で観る理由の一つはCMがあるからかもしれない。
「……夜も遅くなってきたし、お風呂に入って、少しゆっくり過ごしたら寝るか」
「そうですね。一緒にお風呂に入って、一緒にゆっくり過ごして、一緒に寝ましょう」
優奈は俺のことを見つめながらそう言ってきた。あと、『一緒に』というワードを強調して言ったな。ホラー映画がかなり怖かったから、俺から離れたくないのかも。あと、これまでもホラー映画を観たらこういう感じだったのだろうか。
「じゃあ、まずはお風呂に入ろうか」
「そうですね。……あの、和真君。お願いがあるのですが」
「何だろう?」
「……私の部屋で替えの下着を寝間着を用意するときに一緒にいてほしいです。あと、和真君が替えの下着と寝間着を用意するときも一緒にいたいです。映画がとても怖かったのでできるだけ離れたくなくて……」
俺を見つめながら優奈はそんなお願いをしてきた。
俺の服と優奈の服はそれぞれの部屋のタンスに入っている。なので、普段は一人になって、それぞれ自分の部屋で替えの下着と寝間着を用意して、洗面所で合流する流れになっている。時間はかからないし、近くにはいるんだけど……本当に映画が怖かったのだと分かる。
理由は何にせよ、できるだけ離れたくないと優奈にお願いしてもらえるのは嬉しいな。
「分かった。一緒にいよう」
「ありがとうございますっ」
優奈は嬉しそうな笑顔でお礼を言った。優奈の顔にようやく笑みが戻ったな。映画を観ているときはたくさん怖がっていたので、優奈の笑顔を見られて一安心だ。
俺達はソファーから立ち上がり、リビングを出ることに。その際、優奈は俺の着ているワイシャツの袖を掴んで。こんなことは普段はしない。これも、映画が怖かったからだろう。
リビングを出る際に、俺がリビングの照明のスイッチを押して、照明を消した。その瞬間、
「きゃっ」
と、優奈は小さめだけど悲鳴を上げた。
「あっ、和真君が照明を消しただけでしたか。映画で主人公の部屋の照明が突然消えるシーンがありましたから」
「あったなぁ」
そのとき、主人公は今の優奈のように悲鳴を上げていたっけ。
「ええ。それに、自分がスイッチを押さずに消えましたから」
「なるほどな」
それもあって、映画のワンシーンのように思えて驚いてしまったんだな。
「まあ、何かあっても俺が側にいるから安心して」
「はいっ」
優奈はニコッとした笑顔で返事した。
その後はお互いに替えの下着や寝間着を用意するときも、お風呂に入るときも、お風呂を出て優奈の部屋で過ごすときも、寝る準備をするときも、俺のベッドで一緒に寝ようとするときも、お手洗い以外では優奈と俺はいつも以上に一緒に過ごした。いつも以上に優奈と体がくっついている時間が長くて。
「ホラー映画は怖かったですけど、いつも以上に和真君とくっついて過ごすのは楽しかったです」
寝る直前、俺と向かい合う形で横になりながら優奈はそう言った。楽しいと言うだけあって、優奈の顔には可愛らしい笑みが浮かんでいる。
思い返すと、映画が終わってから時間が経つにつれて、優奈は笑顔を見せることが多くなっていったな。
「それは良かった」
「はいっ。和真君と一緒ですから、今夜はぐっすりと眠れそうです。映画を観ている間は何度も叫んだのでちょっと疲れもありますし」
「ははっ、そっか。寝ている間も一緒だから、安心して寝ていいよ」
「はい。では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
おやすみの挨拶を交わすと、優奈は俺におやすみのキスをする。
2、3秒ほどして、優奈の方から唇を離した。優奈は俺のことをそっと抱きしめて、顔を俺の胸に埋めた。この体勢で寝るのも優奈の希望によるものだ。この体勢なら俺とよりくっついていられるし、顔を埋めているから何か見えることもないからだろう。この体勢に安心できるのか、優奈はさっそく可愛らしい寝息を立て始める。
「おやすみ」
そう言い、俺はベッドライトを消し、優奈を抱きしめてゆっくりと目を瞑る。
今後もホラー映画を観た後は、今日みたいにいつも以上に優奈と体をくっつけて過ごすことになりそうだ。そんなことを思いながら、俺も眠りに落ちるのであった。
『ホラー映画を観ましょう』 おわり




