第4話:サウナの概念と、職人魂の暴走
休憩を終え、再び作業に戻ろうとした時のこと。
シズルが、露天風呂の横に広がりつつある真新しいウッドデッキを見つめながら、ふと何気なく呟いた。
「すごいわね……こんなに立派な縁側ができちゃうなんて。これなら、お風呂上がりにここで風に当たりながら涼むのに最高ね。……あぁ、サウナとかあったら完璧なんだけどな」
「さうな? なんだそりゃ?」
聞き慣れない言葉に、ガストンが首を傾げる。
シズルは「あ、ごめんなさい。前世……じゃなくて、私の故郷にあったお風呂の文化なんだけどね」と笑って、懐かしそうに目を細めた。
「小さな木の小屋をね、すごく熱くするの。そこに熱した石を置いて、お水をかけて水蒸気を出すのよ。そうすると、すっごく汗をかくじゃない? その後、冷たい水風呂にザブンって入って、このウッドデッキで風に吹かれながら休むの。……もう、最高に気持ちよくて、疲れなんて全部吹っ飛んじゃうのよ」
「わざと熱い小屋に入って、汗をかいてから、冷たい水に入る……? なんだそりゃ、拷問じゃねえか」
ガストンは顔をしかめた。
だが、彼の職人としての『勘』が、同時に何かを強烈に刺激されていた。
汗をかき切った後の、冷たい水の刺激。そして、大自然の風を浴びながらの休息。
(……待てよ? 昨日、あの薬湯に入った後の、あの『冷たいハーブ水』を飲んだ時のとんでもねえ爽快感。あれを、全身で味わうってことか……?)
想像しただけで、背筋にゾクゾクとするような感覚が走る。
疲労困憊の身体を極限まで温め、急速に冷まし、そして休ませる。それは、長年身体を酷使してきた職人にとって、究極の『快楽』に直結するのではないか。
「嬢ちゃん……いや、シズル様! その『さうな』って小屋、俺に作らせてくれ!!」
「えっ!?」
「詳しい構造を教えてくれ! 熱を逃がさねえ木の部屋だな? 石を熱するなら、あの『火生石』を使えば完璧だ! 水風呂は、この裏山から引いてる湧き水をそのまま樽に溜めればいい!!」
ガストンの職人魂が、完全に暴走を始めた。
これまでファンタジー世界には存在しなかった『サウナ』という概念。それを自分の手で、この最高の環境の中に作り出せるかもしれないという興奮。
「お、おい親方! 今から設計を変えるのか!?」
「うるせえヴァルガ! キッチンの増築は後回しだ! 最優先事項は、この『さうな』だ!! 木材はたっぷりある。今日中に形にしてやるぜ!!」
ガストンは血走った目で図面をひっくり返し、猛烈な勢いでサウナ小屋の設計を頭の中に描き始めた。
断熱性の高い香柏の木を使い、隙間なく組み上げる。内部には階段状のベンチを設け、中央には火生石と川石を積み上げた炉を設置する。
「お姉さん、親方さん、すごく目がギラギラしてます……」
ティセがシズルのエプロンを掴んで怯える中、シズルは苦笑しながら「まぁ、楽しみにしておきましょうか」と、職人の熱意を見守ることにした。




