逆再生の音(1)
日差しが眩しい。もう夏だ。アスファルトも黒々と光る。まるでフライパンの表面のようだ。
「本当あっついな……」
七海楽人はタオルで汗を拭い、ため息をこぼす。こんな時だけは本社オフィスでの仕事が楽だったと思うから現金なものだ。アラサーに近い楽人はそろそろ老化現象が来たのだろうかとも思い、あまり笑えない。
今日は外での仕事だった。とある空きテナントについて調査して来て欲しいと上司に言われた。楽人はとある中小の飲食会社の社員だ。最初は創業者の個人経営のラーメン屋だったが、コンビニとのコラボをきっかけに爆発的な人気となり、店舗数を伸ばし、最近では関東圏への新規出店計画もあった。
マーケティング部署の楽人にも新規出店計画のプロジェクトに入り、ターゲット層の動向だけでなく、こうして現地に出向いて町の人の様子を調査するのも珍しいことではなかった。
「あぁ、あれが呪いのテナントと言われている場所か……」
楽人は目的地につき、ざっと様子を眺めた。駅や繁華街に近い住宅街にある空き店舗だ。近くにきコンビニやドーナツ屋、公園、塾もあり人通りも少なくない。十分集客が見込めると会社でも新規出店を計画していた。
しかし、調べるとここは過去に何回もオーナーが変わっているらしかった。最初はアイスクリーム屋、次はペットショップ、次は、雑貨屋その次は古着屋、その次はパン屋……。せっかくオープンしてもなぜか売り上げが低迷し、早期で撤退しているという。
立地は悪くない。建物自体も綺麗だったし、何か幽霊とか事故物件といった雰囲気もない。それでも、楽人の上司は不気味がり、現地でどういうことか、噂を収集してこいとのことだったが。
「確かになんでこの立地で潰れてるんだ? 謎だな……」
楽人は汗を拭いながら、首を傾げた。通常、小売は立地が良ければ儲かると言われている。出店計画でも言われていたことだし、なぜだろう。確かに上司が言う通り不気味ではある。
「すみません。実はこの空き店舗について調べているものなんですが……」
楽人はちょうど目の前に通りかかった主婦に声をかけた。三十歳ぐらいで、買い物の帰りらしい。ぎゅうぎゅうに膨らんだエコバッグを抱えていた。
「え、この店舗?」
主婦は突然話しかけた楽人より、この話題に顔を暗くていた。
そして声をひそめてこんなこともいう。
「ここの店、呪いの土地って言われているのよ」
その声は低く、夏なのに冷たかった。
「え? 呪い?」
「こう何度も何度もオーナーが変わっているでしょ? おかしいわよね。芸能人一家経営している雑貨屋とかもあったし、チェーン店の人気パン屋も入ってたのよ。それなのにこう短期で潰れるのって……」
主婦は身震いし、もうこの話題は怖いからと走りに去っていく。
「え、土地の呪い?」
そんなバカな話があるだろうか。確かに上司はこういった迷信が好きで、飲むだけで元気になる水を購入していたりしたが、そんな非科学的なことって。
しかし主婦だけでなく、老人、男子高校生、OL、おじさんにも噂を聞いたが、全員この店舗を呪いの土地だと表現していた。
「呪いだよ、この土地は」
最後に話したおじさんの声が耳から離れない。
楽人は科学の方が好きだ。オカルトなんて全然信用できないと思うが、こう何度も言われると、土地の呪いが実際にあるような気もする。
「ほ、本当に呪いなんてあるのか……?」
半信半疑だったが、上司にそう報告。迷信好きの上司は大変怖がってしまい、あの土地への新規出店計画は潰れてしまった。
「しかし土地の呪いなんてあるんかねぇ」
自体に帰り、楽人はひとり考える。楽人は実家で暮らしていた。郊外にあり、通勤も楽だったが、すでに両親は亡くなっていた。つまり一人暮らしだったが、こいして一人で土地の呪い等を考えていると、背中がゾクゾクしてきた。
どこからか視線も感じる。ちょうど部屋に飾ってある両親の写真と目があう。
「え、誰かいる?」
さらにゾクっとしてきたが、まさかそんな非科学的なことはない。ないはずだ。
急いで風呂に入り、さっさとベッドに潜り込んだ。そうだ、気のせいだ。非科学的なことはありえないと自分に言い聞かせて目を閉じる。それでも寝る瞬間、どこかから声が聞こえてくる気がした。
「呪いだよ、この土地の」
そんな声だった。




