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事故物件エクソシスト〜霊と音のお悩み、お聞きします〜  作者: 地野千塩


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呪いのプレイリスト(2)

 詩音はとある教会の前にいた。日本では珍しく悪霊祓いをやっているという噂の教会。


「フランスの教会に比べて地味だわ。プロテスタントだからそんなもん?」


 住宅街にあり、近所にはコンビニや整体もある。日常の風景に溶け込んでる。フランスの教会では派手なステンドグラスやマリア像もあったが、この教会は公民館や図書館のような顔をしていた。名前は羽生教会。名前も地味。


 ここに行けば霊現象についてわかるかもしれない。キリストの名前で霊現象が一応終わったこともあったし、詩音は幼い頃にカトリックの神父たちのエクソシストもみたことがある。教会にやってきたのは特に違和感のない選択だった。


「おぉ、お客さんか。ようこそ、羽生教会へ」


 しかし、牧師という男に会うと後悔し始めた。三十代ぐらいの男だったが、なぜか片手にチョコチップクッキーをもってバリバリ食べていたし、細い目元はサブカル系という雰囲気だった。カトリックの神父とは全く違う雰囲気。服も普通のスーツ姿。ロザリオもつけていない。一応礼拝堂に案内されたが、早くも帰りたくなった。


「俺はオカルト牧師の羽生尋人という。普段は事故物件のオカルト霊現象の悩みや相談も受けてる」


 そんな自己紹介までされ、一刻も早く帰りたい。やっぱり日本の教会はカルトが多いのだろうか。一応伝統的なプロテスタント教会だと確認したが、詩音の頬はずっと引き攣ったまま。


「み、宮城詩音です。子供のころ、フランスのカトリック教会で一応洗礼は受けてます」

「ほぉ。その後に教会は?」

「全然行っていないですね。日本に帰ってきたら行く気も起きなくて。今は普通の日本人と大差ないと思いますが」


 それにしても礼拝堂の雰囲気はどこか懐かしい。フランスの教会はとにかく神聖な雰囲気だった。一方、この教会はシンプルで学校の教室みたい。説教台や高い天井、そこから差し込む光も既視感がある。


 そう思ったら緊張は解けてきた。目の前にいる変な牧師にも事情が話せそうだった。


「実は最近、家で妙な現象が多発しているんです。変な音とか金縛とか。事故物件かとも思ったんですが、大家さんに聞いてもそんな事実はないし、築三年だし。どういうことですかね?」

「そうか」


 ここでようやく尋人はチョコチップクッキーを食べるのを辞め、何か考えていた。視線は左上を向いていた。


「おそらく、部屋自体のせいではない」

「は? そうなんです? 事故物件じゃなくて?」

「あのな……」


 ここで尋人は土地の呪いについて説明してくれた。遠い昔、人間の先祖だったアダムとイブというカップルは全能の神の元で罪を犯した。その結果、男には労働の苦しみ、女には出産の苦しみが与えられ、死も招くようになった。土地も呪われ、作物も育ちづらいどころか、人間の罪も吸収されるようになったという。


「つまりどこの土地でも呪われてるってもんだ。新築とか関係ないぞ。まあ、教会など祈りと賛美が積まれた場所は例外だがな」

「えー、だったら何が原因なの……? 私のせい? 罪って犯罪者てこと?」


 詩音は全く笑顔になれない。罪と言われると責められているような気分になる。日本の教会に行かないのも、「罪人よ、悔い改めよ」などと言っているクリスチャンを見たのも大きい。


「違う。犯罪者って意味じゃない。聖書でいう罪とは神様からズレて生きていること。偶像崇拝が一例だが、恨み心を持ったり、ずっと悲しんでいたり、復讐しようと考えたりっていう。それが悪霊のエネルギー源にもなるし、土地も穢れる。そう、穢れみたいなもんさ」

「穢れ! だったら日本人のわたしでもちょっとわかる」


 確かに心の内側はマイナス思考だったり、異性に執着してしまったり、ドロドロしたものはある。汚いもの。穢れ。それが罪だと言われたら何となく納得。


「じゃあわたしがそういう気持ちを持っていたから霊現象が起きたの? 別に最近はそんな感情になったりもしなかったけど」

「スピリチュアルや占いはやってるか?」

「興味ないな」

「 だったら見るもの、聞くものが原因かもしれない」

「は?」


 尋人は、聖書では心は土地に例ええらるという。言葉は種。悪い言葉を蒔けば悪い実がなるし、良い言葉を蒔けば良い実がなるという。言葉だけでなく見るもの、聞くもの全部が心という土地に影響するらしい。


「俺はネットの広告も全部ブロックしてる。エロい広告が目に入ってくるだけで変な性欲が出たりするからな。それぐらい心という土地には影響があるんだよ」


 尋人の話を聞きながら冷や汗が出てきた。思い当たる点が一つだけある。音楽だ。魔ァ族666の音楽をずっと聞いていた。プレイリストは彼らの音楽で埋め尽くされている。


「っていうバンドを最近よく聞いていたのですが……」

「なんだって!?」


 尋人の顔が強ばる。さっそくどんなバンドかネットで検索していたが、さらに頬が引き攣っているじゃないか。


「原因コレだ。宮城さんが聞いているプレイリスト! よくもまぁ、こんな露骨な悪魔崇拝バンドがいるものだよな……」


 尋人はため息をつき、しばし祈っていた。アーメンとか久しぶりに聞いた。なぜかホッとしてくるから不思議。

 

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