呪いのプレイリスト(1)
キィーンという耳鳴りが響いたと思ったら、金縛にあっていた。
「な、何これ……?」
ベッドの上で息苦しく、宮城詩音の顔は真っ青だ。
「た、助けて……!」
静かな夜のはずなのに、耳鳴りも一層酷く、何か音も聞こえてきた。爪で壁を引っ掻くような音やザワザワとした風の音が混じり合う。詩音の表情が歪んでいく。普段は呑気な女子大生だったが、今は病人とそっくりだ。
「助けて! 誰か! 神様!」
その時、なぜか神様を呼んでしまう。詩音は一般の日本人家庭に生まれたが、幼い頃、フランスに住んでいたこともあり、現地でカトリック教会の洗礼を受けた過去もある。
だからといって別にクリスチャンという自覚は全くなく、日本に帰国してからは一度も教会に行っていない。お祈りや何か儀式のようなものにも参加せず、初詣も友達や家族と楽しんでいたりもした。
それなのに、なぜか当時のことが脳裏によぎってしまう。確かフランスの教会の神父は悪霊祓い、エクソシストと呼ばれているものもやっていて、聖水や十字架を使った祈りも記憶に残っていた。
そんなこともどうでも良くなるぐらい金縛は強くなり、「神様! イエス様!」と大声で叫んだその時。
ふわっと身体が軽くなり、金縛が解けた。一瞬の出来事だ。まだ冷や汗が流れ、ふくらはぎの痛みは残っていたがどうにか解放されたらしい。
「な、何これ? イエスの名前で金縛が終わったってこと?」
そういえばフランスの教会の神父も「イエス・キリストの御名前で命令する! 悪霊よ、出ていけ!」などと言っていたが。
「っていうか、なんで金縛?」
思い当たる理由はない。部屋の電気をつけ、様子も確認するが、呪いの人形とか呪術的な鏡もない。一般的なワンルームだ。小さなキッチンはいかにも一人暮らしの大学生用という雰囲気。また、この部屋があるアパートも築三年で新しい。大学にも近く、治安も悪くないし、交通の便も良い。近所の人たちの雰囲気もいい。
「でも事故物件だった?」
そんな悪寒がした詩音は、翌日近所の人に事故物件の噂がないか聞いて回った。アパートの管理会社にも問い合わせたが、そんな噂は全くないと言う。前の住人も大学生だったらしく、事件や事故、病気の話すら聞いていないらしい。
「じゃあ、なんで金縛なんてあったの? 部屋に妙な音も響いていたし」
詩音は部屋に帰り、コンビニのおにぎりやスープを飲みながら首を捻る。全くわからない。そんな霊現象が起きた理由も心当たりがないし、なぜかキリストの名前で終わった件も謎だ。
「わからないな……?」
いくら考えてもわからず、スマホで動画サイトを開き、お気に入りのプレイリストで音楽を楽しむ。最近、大学の友達に勧められたロックバンドで「魔ァ族666」というな名前だ。こんな名前でも演奏技術が高く、重厚なギターの音色とボーカルのシャウトが心地いい。海外でも演奏技術の高さが認められ、人気も急上昇中だ。
「やっぽこのバンドいいわな。推し活しちゃう!」
なんて思っていたら、急にまた変な音が響いてきた。どこからともなくキィィィと金属音が響き、耳を塞いでも聞こえてくる。
「な、なんなのこの音? 霊現象!?」
いくら考えてもわからない。数日間、変な音と金縛に苦しめられ、すっかり眠れなくなってしまった。
キィィイィィ……。




