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事故物件エクソシスト〜霊と音のお悩み、お聞きします〜  作者: 地野千塩


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神の作品と音楽(1)

 誰かが囁いていた。


『お前なんて無能。お前なんて誰にも愛されていない。神にも見捨てられてる』


 その声の主は実態がない。絶対生身の人間じゃない。動物でもない。幽霊かなんなのかわからないが、織田聖歌はこういった声を子供の頃から聞くことができた。


『そうさ。お前は要らない子。さっさといなくなれば?』

「う、うるさい!」


 耳を塞ぎ、大声を搾り出すと、聞こえなくはなったが、最近は毎夜聞こえるようになってしまった。昔はそんな頻度は高くなかったのに。


 聖歌はため息をつき、水道水をコップについで飲む。冷たい水だ。蒸し暑い今の季節には心地いいが、例の声が耳にへばりついて消えない。まだ、あの声がどこからか響いてきそうで。


「なんなの、これは」


 頭痛もしてきた。頭痛も最近ずっと続いていた。病院にいっても原因不明と処理され、ロキソニンを出されてはいたが、特に効果はない。一応メンタルクリニックにもいった。聖歌と同じぐらの若者も待合室に多く、特に抵抗はなかったが、医者もよく分からないという。統合失調症の症状にも近いらしい。幻聴の可能性も言われたが、その声はリアル。幻聴って感じはしない……。


 聖歌が再びため息をつき、過去も思い出していた。聖歌はエンジェル&ライトというアイドルグループにも所属し、趣味で作曲もしているぐらいだった。


 アイドルとしての生活は事務所のバックアップもあり、トントン拍子だった。ライブ会場もすぐにソールドアウトしたし、ダウンロード数も悪くなく、人気の歌番組に呼ばれたこともある。そう、センターボーカルの清川光が自殺してしまうまでは何もかも順調だった。


 光が消えたエンジェル&ライトは、まるで肉の入っていない牛丼だとファンから評された。ライブ動員も減り続け、ダウンロード数もガタ落ちし、メンバーの脱退やスキャンダルも絶えず、ついに活動休止となってしまった。


「光……。なんで死んじゃったの……」


 それこそ、本物の光のように輝いていた存在だった。同じメンバーとはいえ、その実力差は納得していたし、ネットで噂されていたような不仲説もない。それよりも聖歌が光に一方的に憧れていた。


「光……」


 最後の光からのトークアプリのメッセージも見た。


「聖歌、助けて。声がするの。悪魔みたいな声が! お前なんて死ねっていう声が全然止まらないの!」


 そんなメッセージが最後だった。聖歌がいくら返信しても、電話をかけても既読がつくことはなく、遺体が山奥から見つかったという知らせを聞いた。


「まさか、光もこの声を聞いたのかな……」


 人えはなく、姿は見えない何かの声。よくアニメなんかの比喩表現で、天使と悪魔の声が聞こえ、誘惑されるようなシーンがあるが、あれに近いのだろうか。光のように自殺してしまう人も、悪魔の声に聞き従ってしまったから?


「この声は悪魔からのもの……?」


 背中がぞっとする。頭では非科学的だとわかってはいが、今までの経験もある。光からの最後のメッセージも残ってる。人が見えざるものの存在の声を聞くことは、そんなに難しいことではない?


「いや、そんなことは無いでしょう。やっぱり非科学的だわ……」


 そう言い聞かせて、アコースティックギターを片手にの適当に弾く。今の家は防音もされているので、趣味のギター演奏も問題なかった。


「なんか、新しい曲が降りてきそう」


 メロディも浮かび、楽譜に書き込む。アナログでも、この方が何かインスピレーションがきそう。曲が浮かぶ時は何か空から降ってきそうな感覚がする。不思議なものだ。それこそ非科学的なのに。


 そうして少しメロディが浮かんだ時だった。ギターと違う音がする?


 キィィィィィ……。


 金属音のような、女の叫び声のような音?


 思わず耳を塞いだが、全くその音は止まらない。その上、またあの声が響いてきた。


『お前は無能。何をやっても無駄。そんな曲を作って何になるのー? アイドルグループでもパッとしない不人気メンバーだったじゃん。今更曲なんて作る意味はあるの?』


 その声はいくら耳を塞いでも聞こえてくる。頭痛もぶり返し、頭がガンガンする。


『もう光みたいに死んだ方がいいんじゃない? お前は生きている価値なんてある? そうだ、死んじゃった方がいいんじゃない? さっさと死ねば?』


 囁き声なのに、ガンガン響いて消えない。


『無能、無能、生きてる意味とかないね? 早く光の同じことをしたら?』


 何度も何度も聞かされると、本当にその通りになりそうで、頭が全く動かない。


『こんな無能、神も見捨てた。神にすら愛されていないだろう』


 神とかよくわからない聖歌だったが、本当にそんな気がしてきた。この声は真実なのだろうか。


「光……」


 かつての仲間の名前を呼んでも答えはない。


 こんな夜が毎日続くようになってしまい、頭痛だけでなく、腹痛、耳鳴り、吐き気、関節痛などの体調不良。仕事もできる状況でもなく、すっかり引きこもりの生活になってしまった。

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