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29:俺、一族で一番、高く跳ねる!

「それで、アルトリウスは今どこにいるんですか?」


 定期的に城が揺れているので、どこからか攻撃を受けているのは間違いない。さっきは城の壁が吹き飛んだし、魔王の目的がここにあることは明白である。


「魔王はおそらく、聖剣エクスカリバーを探しているのじゃろう」

「聖剣を?」

「左様。魔王は聖剣を手中に収めることで、自身を滅ぼす唯一の手段をなくそうとしているのじゃろう。聖剣の力を発揮できるのは勇者だけじゃ。勇者不在の今、ただの剣と変わらぬ聖剣を無効化するくらいわけはない」


 確かに魔王は勇者である美言みことが現代にいることを知っている。美言みことの先祖斉久(なりひさ)に封印された時、勇者シフィルが聖剣を所持していないことも見たはずだ。

 その後に封印された魔王は、聖剣エクスカリバーが今もまだディセリアにあると思っているのだろう。だから美言みことがディセリアへ渡ってくる前に聖剣を奪うことが出来れば、たとえ勇者であろうと魔王《自分》を完全に倒す手段は失われると考えたのだ。


「勇者シフィルが神託を受け、聖剣エクスカリバーを授かったのは、このディセリア王国にあるシンセェナ教会の大聖堂じゃった。この地は勇者シフィルにゆかりのある場所。だから魔王も、ここに聖剣があると踏んでいるのじゃろう」

「魔王ってば結構お茶目さんだよね~。まさかその護り手であるアルの体を奪うなんてさ。寝起きで頭が働いてないのかな」

「ひとつ疑問なのでござるが……」


 控えめに右手を上げて、ヘイちゃんが会話に割り込んできた。


「護り手殿の体には、まだなまくらの残りカスが残っているのでござろう? 残りカスとは言え、それは魔王にとって苦痛になるのでは?」

「確かにそうじゃ。しかしその苦痛を上回るほどの魔力を、護り手アルトリウス・ヴィルオルセンは有しておる。高い魔力を持つ体は、魔王にとっても都合がいい」

「アルトリウス・ヴィルオルセンは、高い魔力を持つ者が多く生まれるツォーイゾ村の出身だと記録がある。大昔、魔族の手によって滅びてしまったが……」

「戦災孤児……」


 ぽつり、と美言みことは声を漏らした。自身のことをそう言ったアルトリウスの横顔が脳裏によみがえってくる。

 アルトリウスのことを、美言みことはほとんど知らない。だから全部終わったら話を聞かせてほしいと、そう約束したのはほんの数時間前のことだ。

 アルトリウスのことをひとつ知ることが出来たのに、なぜ心の奥がもやもやするのか。それはきっと――アルトリウス本人から、聞きたかったからだ。


「……アルトリウス」


 膝の上に置いた手をぎゅっと緋袴ごと握りしめた。

 早く助けたい。魔王から、その体も心も取り戻してやりたい。そう強く心に願うと、美言みことの思いに反応してガリバーの金髪がきらきらと光を増した。


「あぁ、ハニー。最高だよ。キミの強い思いに反応したボクの体が、また輝きが増してしまったようだ」

「そこが光るの!?」

「おやおや、どこを光らせてほしいのかな。イケナイ勇者様だね」

「なまくらぁぁ!! 一国の殿の御前で破廉恥な発言は控えるでござる!」

「へぇ? キミには破廉恥に聞こえたのかい?」

「うぐっ」


 ガリバーの危うい発言に美言みことはもう慣れてしまったが、彼を聖剣として神聖視しているディセリア王たちにとっては衝撃に違いない。恐る恐る彼らを見ると、案の定目を丸くして呆然としていた。


「えぇと……すみません。発言には問題あるんですけど、聖剣としてはちゃんとした働きをするので……その、大目にみてもらえるとありがたいです」

「うぅ、む……。彼が聖剣であることは、我もマ・ドゥーシも確認している。……確認した……よな?」

「幻惑の術の痕跡もないので、大丈夫じゃろう……?」

「安心して下さい! ちゃんと聖剣です!」


 美言みことの声に重なるようにして、また城が大きく揺れた。箱庭の、大聖堂近くにある青い石が点滅に代わっている。魔王の攻撃を受けて結界が損壊した印だ。

 すかさずマ・ドゥーシがさっきと同じように手をかざして瞬時に結界を修復していたが、続けて響く轟音に別の個所の石も点滅を始めた。


「魔王の攻撃が激化しているようだな」

「そろそろ勇者が追ってくるかもしれないと焦っているのじゃろう」


 マ・ドゥーシの言葉を裏付けるように再び轟音が響き、箱庭の中で青い石またひとつ点滅した。


「いくらここに結界の核があるとはいえ、それが絶対に破られぬという保証はない。我々も早々に動かねば」

「わしは結界の核を守らねばならぬゆえ、ここから離れられぬ。魔王と直接対峙するのは勇者殿に任せたい」


 怖いという気持ちが完全に消えたわけではないが、魔王を倒すことが出来るのは聖剣に選ばれた勇者美言(みこと)だけだ。それにアルトリウスを救うためにここまで来たのだから、今更尻込みしている暇もない。美言みことは唇をキュッと噛み締めると、強く頷いてみせた。


「……はい!」


 美言みことの返事に頷き返したマ・ドゥーシがおもむろに杖を振ると、箱庭の上に実際の城や大聖堂の姿がホログラムのように浮かび上がった。


「コウンルートしてレポットとミレッツを足したやつに、グラヌェラワだけを残したやつ!!」

「ほぅ? よく知っているな。古代魔法の一種じゃぞ?」

「アルトリウスが以前見せてくれたんです」

「そうか。古代魔法は彼の出身ツォーイゾ村で生まれたものじゃからな」


 マ・ドゥーシが杖を軽く上に動かすと、浮かび上がっていた映像も動いて城の上空が映し出された。雲ひとつない青い空、そのある一点にまるで暗雲の如く広がる漆黒が見える。魔物を呼び寄せる魔王の邪気だ。そしてその闇の中に、アルトリウスの姿があった。


「アルトリウス!」

「彼は今この国の上空から攻撃をおこなっておる。我々はここで魔王の攻撃を結界で弾き返しつつ、少しずつ攻撃に転じるつもりじゃ。魔王の意識がこちらに向いている間に、勇者殿は背後から聖剣を突き刺すのじゃ」


 ここに白冥はくめいがいたら、また「勇者が卑怯な手を使うことには目を瞑ろう」と言われそうである。

 だが、魔王の隙をつく計画には正直大賛成だ。完全な勇者になったといっても、美言みこと自身に戦いの経験はほとんどない。ならば魔王が戦闘モードに入る前に一気にカタを付けた方が、より安全で確実に仕留めることができるだろう。


「時に勇者殿、魔法の心得は?」

「ごめんなさい。全然ないです」

「では魔王のいる上空まで単独で向かうことはできぬのじゃな。魔道士の中から、ひとり選んで……」

「いや、マ・ドゥーシ。結界維持に加え魔王に攻撃も仕掛けるとなると、遠距離攻撃のできる魔道士から人員を裂くのは得策ではない」

「しかし、王よ。勇者殿を上空の魔王のもとへ連れて行くには、浮遊魔法の使える魔道士しかおらんじゃろう」

「一人、心当たりがある。少し待て」


 そう言ってディセリア王は一度退室した後、一人の騎士を連れて戻ってきた。程よく日に焼けた小麦色の肌をした騎士は、鎧を着ていても逞しい体つきであることが見て取れる。


「彼はトラン地方の出身でな。彼の一族、ポリン族は魔法は使えないが、高く跳ねることにおいては右に出る者がいない」

「なるほど。確かにポリン族なら勇者殿を抱えて魔王のもとまで跳ね上がることが出来るじゃろう」


 まさかのポリン族の登場に、美言みことは思わず「トランポリン!」と叫びそうになってしまった。

 トランポリンを連想させるくらいだから、何となく軽くてふわふわした生き物を想像していたのだが、目の前に現れたポリン族はガッチガチのムッチムチとした筋肉の塊のような男性だった。軽やかに跳ぶというより、地面を深く抉りながら着地するようなイメージがしっくりくる。

 そんな疑念を感じ取ったのか取っていないのか、ポリン族の青年は白い歯をキラリと輝かせながらゴツい拳で自身の胸をドンと叩いた。


「俺、一族で一番、高く跳ねる! 問題、ない!」


 自信満々に宣言した青年は、美言みことと目が合うと人懐っこい笑みを浮かべてニカッと笑った。




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