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37・じょい

 






 無意識に年齢を答えてしまうツヅリ。

 言ってしまったあとで、年齢だけ憶えているのも不自然かと少しばかりヒヤリとしたが。

 当のシャルロッテにそれを気にする素振りはあまりないように見えた。


「はーいどうも。こんにちは、人間さん」


 そんなこんなで問診票も書き終え。

 1時間ほどして、少々ぐでっとしながら椅子に座っていた2人。

 そこへ1人の白衣をまとった人物が近づいてくる。


 白銀色のロングヘアをたなびかせた、青い瞳が特徴的な美しい人物。


「君たちを担当する、パッチモン・マングースと申します。以後お見知りおきを」


 プシュルルルと、かすかな音が聞こえたような気がした。

 ───パッチモン・マングース。

 ニコリと笑いながら手をひらひらさせる彼女?に、ツヅリは愛想笑いを浮かべて軽く会釈する。

 ぞわりと悪寒のようなものを感じるも、なぜそう感じたのかはわからない。


「あ、これ書けたのでお願いします!」

「えーと、なになに……?」


 パッチモンと名乗る女医に問診票を手渡すシャルロット。

 女医は眉間にしわを寄せ、目を細めながらそれに目を通していく。

 あごに手をやってふんふんと小さく頷く様からは、先ほど感じた悪寒のようなものは微塵も感じられない。


「記憶喪失……ねぇ」


 そう言いながら、彼女はちらりと問診票から目を離した。

 目が合ってしまったツヅリ。

 彼は自分の心臓が跳ねるのがわかり、ゆっくりと視線をそらしてシャルロッテのほうを見る。

 目を逸らしたわけじゃない。

 決して。


「まあ、はい。わかりました」

「それでどうなんですか? ナハトちゃんは!?」 

「……ナハト?」


 すこしばかりの気まずさ。

 しばらくの沈黙があり、ふうと息を吐いて問診票を下ろした女医に、シャルロッテが前のめり気味にそう尋ねた。

 その言葉に女医はもう一度、問診票に目を通す。


「ふーむ……。ナハト、ナハトちゃん、ね……。記憶喪失でしたっけ?」


 なにかを確認するような素振りを見せたのち、彼女はツヅリに対して問いかけた。


「は、はい。なにも思い出せなくて」

「正直なところ、記憶喪失の人にできることってあんまりないんですよ。一応、検査はしてみますが……頭部に外傷でもなければ、様子見するしかないでしょうね」

「そんなあ……。じゃあナハトちゃんはずーっと記憶ないままってことですかぁ?」

「そうかもしれないし、もしかしたら戻るかもしれません。高度な魔法でもない限りは、私ではどうにもできないですから」


 そう言われて。

 不安そうな表情を浮かべていたシャルロッテは、何とも言い難い、まるで腑に落ちないといった感情をあらわにしている。

「もうしわけない……」と内心で居た堪れなくなってきたツヅリ。

 そも、出会って間もないであろう他人にそこまで感情移入できるシャルロッテのほうが、どちらかと言えばすこし特殊であるのだけれど。

 この際、それを言うのは野暮というものだろうか。


「そしたら検査をしてしまいましょうか。ナハトさん、こちらへ。シャルさんはここで待っていてください」


 腕時計に目を落とし、時間を確認した女医がツヅリに向かってそう声をかけた。


「だいたい1時間もあれば終わりますから。終わったらそのまま帰っていただいてかまいません」



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