冒険者と錬金術師の話
「へー、リミーヤさん、錬金術師なんだ」
「薬が中心だから傷薬とか困ったらつくれるわ」
互いに、追加注文をしたミルクティーを飲みながら会話をする。ピザは食べ終わり、食後のティータイムといった感じであった。
「店もやってて、それで稼いでるの」
「そうなんだ。うちの知り合いも店やってるんだ。よく世話になってる」
「レニーさんの知り合いにも錬金術師がいるのね」
「うん、この杖もつくってもらった」
腰に下げている杖を軽く叩く。
リミーヤはレニーの腰を覗き込む。その瞳には興味の色があった。
「そうなのね。見せてもらっても、いいかしら?」
「どうぞ」
クロウ・マグナをリミーヤに渡す。リミーヤは、いろいろな角度でクロウ・マグナを観察し始めた。
「……この杖」
リミーヤの目が鋭くなる。
「分解できるように作られてる……特定の部品が壊れたら入れ替えで対応できるし……魔物もかなり希少な素材が使われてる……」
傾けたり、立ててみたり、シャフトの先を覗き込んでみたりと、あれこれ見る。
「この、ボタンは?」
「ストッパーだよ。カートリッジを入れ替える」
「押してみても?」
「どーぞ」
クロウ・マグナのストッパーを外し、シリンダーを出す。
同業者が作ったものだからか、かなり熱心に見ていた。
錬金術師と一言にいっても、そのありようは様々だ。冒険者のように得意不得意はある。
錬金術師の最終目的は「金をつくること」、そして「不老不死の霊薬をつくりだすこと」であった。
あった、というのは、前者は実現した者がいたが、かなり非効率かつ大損するものであり、後者は非人道的な方法が模索されるようになり、多くの方法が禁止事項になったからだ。
結果的に錬金術師は物質の特性を利用し、魔道具や薬をつくる者というイメージに落ち着くこととなった。
探求そのものをやめたわけではないそうだが、かなり鳴りを潜めている。
ちなみにこういった事情は杖の制作者、エレノーラから教えてもらった。
「あの、錬金術師の名前を聞いても……?」
「エレノーラ・キャンディ」
ピタリと、リミーヤの動きが止まった。
「エレノーラさん?」
「知り合いなの」
首を振られる。
「こちらの界隈だとかなり有名人というか……この精巧な作りの杖も納得」
レニーが知り合いでいるのも、世間話をするのもエレノーラなせいか初めて知った。
……まぁ、レニーの無茶振りに叶う杖を作れる時点でタダ者ではないし、有名なのも納得ではある。驚きはなかった。
「もしかしてレニーさん、冒険者として凄かったり」
「彼女と知り合ったときはトパーズだったよ。今はルビーだね」
遠回しに凄かったからエレノーラと知り合えたわけではない、とアピールしておく。伝わるか不明だが。まぁ、妙な勘違いをされたら訂正すればいい。
リミーヤは真剣にレニーの顔を見た。それからわずかに俯く。
「あの、助けてもらった身で申し訳ないのだけれど、依頼をしたいなんて我儘……通ったりするかしら」
「内容によるけど、受けられはする。仕事は増えるのは得だ。その辺は気にしなくていい。依頼内容に問題がなければ、構わないさ」
「……では、決心がついたら依頼をするかも。そのときはお願いしても?」
「いいよ」
レニーは特に悩まず返答した。
困っていて依頼をしたいが、個人的な事情で戸惑う人間も少なくはない。リミーヤもそうなのだろう。
こちらから声をかけてもいいが……本人の気持ちの整理がついたり、こちらの信頼が得られるまでは「依頼自体は受けられる」、「こちらはむしろ受けたい」といった姿勢のまま待っていたほうがいい。
その方が相手を混乱させないからだ。
互いのカップが空になっていることを確認し、レニーは口を開く。
「そろそろ家に案内してもらっても?」
「そうね。行きましょうか。これ、ありがとう」
リミーヤがクロウ・マグナを差し出してくる。
「どうも」
杖を返してもらい、レニーはいつも通り、ホルスターにクロウ・マグナを差し込んだ。
リミーヤが立ち上がり、レニーもそれに続く。
「じゃあ、今夜はよろしく」
「こちらこそ」
リミーヤは軽く頭を下げた。




