傍観者
冬城椿
大物女優で、浅桜美花とは一回りは歳の離れた先輩にあたるが、彼女の友人として有名だった。彼女の葬式の際も、別れの言葉を告げ、一番涙を流していた。S N Sでも彼女のことを投稿し、追悼の意を表しているところ、抜け目ない。 話を聞こうとするが、泣いていてそれどころではない。やっとのことで聞き出したことも、あまり有用なものはなかった。本当に友人なのかと疑いたくなる。だが、冬城椿が彼女のことをいい人として認識し、大切にしていることはよく伺えた。彼女は素敵なの、本当に、っと何度も何度もそう呟いていた。
「いいっすか、いくつか質問しますよ。」
山田が半ば諦めたように彼女を制する。鬱陶しさが露わになっている。こいつは、と思いながらもこんなに長時間泣き腫らされてはこちらもお手上げだ。
「えー、冬城椿さん、あなたは亡くなった浅桜美花さんとプライベートでも仲が良かったと伺っておりますが、どのようなご関係で?」
彼女の様子に懲り懲りしているからか、山田の質問は大雑把で抽象的になっている。それでも必死に答えようとする冬城の眼は酷く腫れて真っ赤だ。
「ええ、いつも仲良くしてくれていて、とってもいい人なんですよ。どこにも欠点がなくて、どうしようもなくいい人。」
浅桜美花とはプライベートでも関わりがあるとS N S やトーク番組内でもよく流れていた。その割には具体的なエピソードや彼女の私生活などを話す様子はない。
「でも…」
冬城はここで言葉を濁した。
「でも?」
山田が続きを促すように繰り返す。冬城が俺たちに少し顔を近づけるように前屈みになる。
「彼女、あまり自分の気持ちとか考えとかあまり話さないタイプでしょ⁈何というか、たまにわからない時もあったりして、少し気味が悪く感じることもあって…でもね、いい子なのよ。人懐っこいというかね、それでいて落ち着いていてね。」
片手に持っていたハンカチで目元を上品に抑える。また泣き始めるのかと思ったが、今回は続きをスムーズに話し始めた。
「後ね、私気になっていたことがあって、ストーカー被害に遭っていたんじゃないかと思うの、彼女。たまに彼女の家にあげてもらうこともあってね。その時、何気なくみたポスト、すごくパンパンで、でも彼女中身を見ずに捨てていたのよ。きっと嫌がらせか何かだと思うの。それに毎日来てるんじゃないかな。」
「そのことについて浅桜さんとは何か話していないですか。」
山田が食いつく。冬城も少し困ったように眉を寄せながら話している。
「そう、気になって聞いたんだけど、ストーカーとはまた別のようで、詳しく話してくれなかった。ストーカーは事務所前やテレビ局の前で待ち伏せ程度だったみたい。スタッフさんに聞いたの。」
「それほどストーカーの被害は大きくなかったと…」
山田が少しがっかりする。それはダメだぞ、感情が出過ぎだ山田と思いながら俺が顔を顰めると、山田が咳払いをして冬城に向き直る。
「そうみたいです。マネージャーさんも彼女本人も被害届とかも特に出していないみたいだったし…」
なるほどと言いながら山田が片手に持っていた手帳に何やら雑にメモをとっている。
「この職業は魅せるが仕事でしょ、だから仕方がないと諦めていたんだと思う。それでも怖いものは怖いのに。きっと苦しかったでしょうね。周囲には何も相談とかしないからね、彼女。」
これまで泣いていたのにこの時は少しあっさりしているような印象を受けた。気のせいか。最初は泣き腫らしていた冬城も別れる時には瞳の涙もカラカラに乾いていた。わからないのはお互い様なのではないかと思えてしまう。
栗花落一夏
タレントとして名を挙げており、浅桜美花の先輩にあたる。よく仕事を一緒にすることが多く、同じ番組に出演していることも多かった。勉強熱心な浅桜が、先輩と慕い、栗花落からアドバイスをもらうなどと話しているところも耳にした。二人でライブ配信をするなど、関わりの多かった二人だ。
「彼女、若くしてデビューしちゃったから、少し怯えててさ、だからたまに声をかけてあげてたんですよ。そしたら、懐いちゃってというか、アドバイス求めてくるようになって。最初は可愛いなと思って気に掛けてたんですけど、あの人柄でしょ。裏表ない人でスタッフさんにまで優しいんだから。番組に出たら、好かれて私より有名になっちゃった。嬉しい反面、そりゃあ私も人間だし、嫉妬もするけどね。でも懲りずにこんな私でも慕ってくれて、家族いないっていうから、私が姉がわりみたいにね。でもね、彼女、うまくやっていましたよ。」
自分が疑われるんじゃないかとも考えていないような素直や言葉に少し驚いたが、彼女のタレントとしての毒舌なキャラクターそのままだ。彼女の方が裏のない人なのではと感じてしまう。
「ストーカー?そうなの?…あー、でもよくテレビ局の前で出待ちしてる人いましたね。でも彼女、そんなことで他人に泣きついたりしない人でしょ。笑って流すというか、少し冷たい一面もあるというか。別に私プライベートで仲良くしてたとかではないし、ただ仕事仲間みたいな関係だったので、そこまで詳しくは知らないです。」
浅桜美花を話すどの人にも「優しいが冷たい」と感じる面があったようだ。彼女には内に秘める何かがあったのだろうか。
「いい子でしたよ、勉強熱心で。素直で誰にでも優しい人でしたよ、本当に。お人好しすぎるところもあって、憎めなくてね。どうして死んじゃったんだろうって、今でも少し現実が嘘のように感じてしまうことがあります。」
どうして死のうと思ったのか見当もつかないと話す栗花落は、至って冷静だったが、たまに言葉をつまらせる。目をかけていた後輩がいなくなるのは辛いと何度も話していた。言っていることは本当のようだ。
「そりゃあ、妬ましいですよね。私より若手だけど売れまくって、それでいて性格いいとかずるいでしょ。でもなんで自殺なんだろう。ストーカーに殺されたとかならまだなんとなく納得できるというか…」
そんなはっきりというのかと、同僚として少し情がなさすぎるのではを感じてならなかったが、これが彼女の追悼の仕方なのかもしれないな。
誰もが彼女を羨んでいたのは間違いなく、誰もが嫉妬するほどの存在だったようだ。画面越しからも想像ができたが、実際に近くで見ていた人でもそうなのかと、ベールのかかった浅桜美花のプライベートが誰にも見せられないものであることに少し同情する。関わったことのある人には一通り話を聞いたが、誰も彼女が自殺するとはと驚きを隠せない様子だ。ストーカーの話はある程度本当のところもあり、やらせなのではと話す人もいた。スタッフやマネージャーの中には、彼女に嫉妬心を抱く芸能人が愚痴を漏らすところも見ていたからだろう。人が良すぎるにも程があるらしい。人間味のない人だったのかもしれない。そして彼女の過去は誰も知らないようだ。彼女の過去は気になるところだ。




